荻原裕幸「あるまじろん」(1992) 嫉妬させたら刺殺するわと朗らかにラテン的なる恋人である |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2017年3月17日

嫉妬させたら刺殺するわと朗らかにラテン的なる恋人である
荻原裕幸「あるまじろん」(1992)

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いくら冗談めいた口調だとしても素直には笑いにくい、どぎついジョークだ。それを「朗らかにラテン的」で済ませてしまえるのは愛情か優しさか、それとも時代の空気か。作者は90年代に興った「ニューウェーブ短歌」運動の旗手のひとりで、ニューウェーブという名称の名付け親でもある。弾けるような口語を用いたポップでハイテンションな恋愛短歌を歴史的仮名遣いで表記するミスマッチが、なんだかパラレルワールドの日本を描いているような印象を与えてくれる。

とんでもないことを言っているように見えるけれど、この「恋人」はどこまでも明るく素直で、思ったことを嘘をつけずに口に出してしまうだけだ。現代なら「嫉妬させたら刺殺する」は思い詰めたような言い方かもしれないけれど、ここではからからと笑いながら言い放っているのだろう。どぎまぎするのは男ばかりだ。この歌が収められた歌集が刊行される前年、一九九一年にテレビドラマ『東京ラブストーリー』が大ヒットした。この歌はそのドラマで鈴木保奈美が演じていた、自由奔放な女性・リカをなんとなくイメージさせてくれる。朗らかに物騒なことを言う「ラテン的なる恋人」は、新時代を生きる女性の偶像なのだ。

なお同じ作者が一九九四年に刊行した歌集『世紀末くん!』にはこんな歌が入っている。〈なぜ恋人に刺されるときは膵臓が狙はれやすいのだらうか鳩よ〉。うーん、結局嫉妬させてしまったのでしょうか。それも何度も。
2017年3月17日 新聞掲載(第3181号)
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