アート・パワー / ボリス・グロイス(現代企画室)美術のヘモゲニー主張 非西欧視点の辛辣さ 自律性を軸にシーンを読み解く|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年3月17日

美術のヘモゲニー主張
非西欧視点の辛辣さ
自律性を軸にシーンを読み解く

アート・パワー
出版社:現代企画室
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先ごろ来日して話題を呼んだ美術批評家のボリス・グロイスは著述だけでなく各種国際展(ビエンナーレ)のキュレーションでも活躍するが、邦訳は『全体芸術様式スターリン』のみで紹介にはやや偏りがあった。前掲書の美術史でなく、美術理論を主題とする今回の翻訳は好企画と言える。

美術理論の著書の多くが作品に則した理論展開であるのに対し、美術表現の成り立ち(制度とプラットフォーム)に重点が置かれているのは珍しく、これが本書に独自性と同時代性を持たせている。

フォーマリズム以後の美学は、ラカンやドゥルーズ、バーバのような社会哲学の援用で展開され、他律性が強かった。これに対し、グロイスは自律性を提示する。「命題と反命題を同時に体現する『逆説の物体』」(パラドクス・オブジェクト)がそれだ。

デュシャンのレディメイドの意味作用と前衛の否定による永続的な更新運動もこの法則で説明される。評者はこの働きを近代理性による自己批評性と捉えるが、彼はむしろ近現代美術に内在する因子で捉える。いわば「クレタ人の嘘」というアルゴリズムだ。

既成秩序である社会環境と矛盾因子の発動がもたらす軋轢が、昨今世界各地で検閲や規制を頻発させる。彼はこの壊乱性に現代の知としての美術の社会的役割を見出す。他の干渉を排し、美術の内なる動因を重視する自律性の視点だ。

自身「勢力均衡に貢献することを願って」と書くように、これは美術のヘゲモニー主張に他ならない。国境を横断するグローバルな存在の美術は、トランプVSヒラリーのような固有性と普遍性の対立に日々さらされている。彼の論は現場の視点からシーンを牽引するテーゼの役割がある。

いま国際展はかつての美のカーニバルから知と活動のプラットフォームに変貌しつつある。グロイスは内因するアルゴリズムから表現の変遷を説き明かしていく。たとえばキュレーションは「文脈化し、物語化すること」に本領があり、その重要度の高まりはレディメイドという作品における実体の喪失の帰結だ。

一方で、この現象はアート・ドキュメンテーションの台頭も招来する。単に情報に過ぎないこの存在は場を得て唯一性を具える。情報と人的活動を水路づけする手法にインスタレーションがある。この生きた場の創造において、キュレーター、作家と批評家は合流する。美術館はその情報を体系化する歴史性において重要な役割を担っている、というわけだ。

表現者によってはこの見取り図に嘆息が出るかもしれない。美術をめぐる公共圏のありようが実に統合(収斂)的で、分散という余白がない。制作の軽視は表現の衰弱と社会との乖離を招きはすまいか。

グロイスは東ドイツ出身。西欧でもアジアでも資本主義国でもない出自の彼は、多様性と他者性の問題に凡百のリベラリストにない鋭さで切り込む。辛辣さが持ち味のようだ。(石田圭子・齋木克裕・三本松倫代・角尾宣信訳)

この記事の中でご紹介した本
アート・パワー/現代企画室
アート・パワー
著 者:ボリス・グロイス
出版社:現代企画室
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年3月17日 新聞掲載(第3181号)
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