松居直と絵本づくり / 藤本 朝巳(教文館)もはや神話とも化した松居直の絵本作りに寄り添った一冊|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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書評
2017年3月17日

もはや神話とも化した松居直の絵本作りに寄り添った一冊

松居直と絵本づくり
藤本 朝巳(教文館)
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松居直と絵本づくり(藤本 朝巳)教文館
松居直と絵本づくり
藤本 朝巳
教文館
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日本の現代絵本の歴史にとって画期となったのは、一九五三年一二月から刊行が始まった「岩波の子どもの本」と、一九五六年四月号から創刊された月刊絵本「こどものとも」だといっていいだろう。

「岩波の子どもの本」で紹介された欧米の物語絵本に強烈な印象を受けた松居直は、「こんな絵本が出版できたら編集者として本望だ」と、三年後に直販方法による月刊物語絵本「こどものとも」を創刊するのだ。

ミネルヴァ書房から聞き書きによる『松居直自伝』を刊行した著者は、そこでのインタビューや取材、対談や講演などをもとに、松居の直接編集に関わった作品を解説しながら絵本作りの秘密を解き明かす。ちなみに第1部は、“「こどものとも」の編集と松居直”。第2部は、“松居直と名作絵本作り”で、『セロひきのゴーシュ』『とらっく とらっく とらっく』『ちいさなねこ』『ぞうくんのさんぽ』を取りあげ、それぞれに凝らされた絵本的な工夫やテクニックを具体的に紹介する。

第3部は、“松居直とともに絵本を作った人々”で、瀬田貞二、堀内誠一、佐藤忠良、赤羽末吉らとの出会いと作品デビューのいきさつや、絵本作りの現場でのやり取りまで含めて、松居の証言をもとに再現される。

赤羽末吉が福音館に訪ねて来て、初対面の松居に「雪を描きたいんです」と申し出たという。松居はそのあとすぐに瀬田貞二の所に行って、「笠地蔵」の再話を頼む。「瀬田さんの奥様は信州・飯山のご出身で、昔話を語られる方です。奥様が笠地蔵の話を瀬田さんにされて、それを元にして瀬田さんがお書きになったと聞いています」と、松居は絵本『かさじぞう』の誕生の経緯を語る。大胆な新人の起用も、編集者としての慧眼である。

松居が、できるだけ新人を起用しようとしたのは、「既成の作家には、先入観もあって、新しい絵本という表現方法を理解してもらえなかった時代だったからです」と著者がいうのは、いささか勇み足だろう。ちなみに創刊当時の「こどものとも」を見ると、1号は、与田凖一作/堀文子画「ビップとちょうちょう」。2号が宮沢賢治原作/佐藤義美案/茂田井武画「セロひきのゴーシュ」。3号は、シートン原作/内山賢次訳/関英雄案/松下紀久雄画「おうさましかのものがたり」。4号は、寺村輝夫作/山中春男画「ぞうのたまごの たまごやき」。5号は、瀬田貞二作/寺島竜一画「なんきょくへいった しろ」。6号は日本昔話で、岡本良雄案/朝倉摂画「てんぐの かくれみの」というように、4号の寺村輝夫をのぞいては、絵本を描くのは初めての人もいるが、ほとんどが戦前から活躍している既成作家である。

第4部は“ロングセラーと新しい絵本”と題したインタビューと座談会。「絵本をみる眼 ――ロングセラー絵本誕生の秘密」では、1号から149号までの松居が関わった「こどものとも」の絵本について語られる。「時代に合う作品作りの試み」は、加古里子の絵本『万里の長城』ができるまでの、松井と担当編集者と著者の鼎談である。

いまや絵本は子どもばかりではなく、大人にも広く読みつがれている。各種絵本講座や、絵本専門士養成講座などと言うのもある。ユニークな新人も次々と登場してきている。日本の絵本に対する、海外での評価も高い。今日の絵本の活況をもたらすに至る過程で、松居直の果たした役割は確かに大きい。従来、編集者は黒子だといわれ、前面に出ることは少なかった。しかし松居は、自ら編集した作品を、まさに担ぎ屋商法的に携えて各地を回り、作品に込められた思いやエピソードを語って絵本伝道師的な役割を果たし、しかも福音館書店という出版社を隆盛に導いた稀有な経営者でもあった。もはや神話とも化した松居の絵本作りに寄り添った『松居直自伝』を補強する一冊である。
2017年3月17日 新聞掲載(第3181号)
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