看護婦の歴史: 寄り添う専門職の誕生 / 山下 麻衣(吉川弘文館)女性労働から切り込む看護師の専門職化への道程  明治後期から第二次世界大戦を時代背景として|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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読書人紙面掲載 書評
2017年3月17日

女性労働から切り込む看護師の専門職化への道程 
明治後期から第二次世界大戦を時代背景として

看護婦の歴史: 寄り添う専門職の誕生
出版社:吉川弘文館
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折しも、2月中旬は例年、保健師・助産師・看護師国家試験が実施される。合格発表がされる3月末迄は、受験生の間に喜びと憂いが漂う時期となる。近年の看護師国家試験受験者は5、6万人、合格率は88~92%を推移している。本書によると、大正期、地方長官が行う看護婦試験の出願者は年々上昇し、1926年には全国で17171人に及び、合格率は26・9%であった。中でも東京府の合格率は12・5%とあり、時代や制度の相異を考慮したとしても現在との余りの差に驚いた。

この様に、本書には現在とかっての違いや共通点を随所に発見でき、歴史を辿る面白さと重要性を実感した。方法論や援助技術を担当する看護教員である評者は、考える機会の少ない看護史に関して論究された本書を、関心深く読ませて頂いた。

本書の特徴は、第1に近代看護婦の歴史を実証分析したものであるが、看護専門職ではなく経済史の研究者によって執筆された点にある。近年、看護史研究は看護の専門家以外にも拡がり、方法論や分析の学際性、多様性をもたらしてきたと説明されている。著者は、そうした変化を担う日本の先駆者と言えるのだろう。第2に、女性労働の視点から資格職としての看護師が成立していく経緯を、労働内容、待遇、身分、社会的評価の面から明らかにしている点である。これ迄の日本の看護史研究は社会的地位の低さ、地位向上の方策提示が主であったと言う。本研究では女性労働としての看護婦の存在に切り口を当てている。

本書の目的は、「看護婦」と言う主体がどの様に養成され、誰をどの様に看護し、どのような場でいかなる待遇で働いてきたかの歴史を描き出すことであると、著者は述べている。その手法は、資料や統計データの比較分析、調査結果、当事者の述懐記録等を駆使しているため、客観的、実証的に理解でき、かつその場、その時に生きた労働の実相をイメージし感受できる。

本書は、「どこで」、「誰を」看護していたかを基準に、序章、1~7章、終章で構成されている。殆どの看護職種を網羅し、其々の起原、養成、職務、待遇等の歴史を解明している。1章では、看護婦の国家的資格の成立、2章では、日本赤十字社看護婦の日清、日露戦争から第二次世界大戦における戦時救護の歴史、3章では、派出看護婦の誕生と消滅、4章では、病院看護婦の統計的実態、5章では、貧困患者のために働く済生会や日本赤十字社の巡回看護婦、社会看護婦の活動、6章では、聖路加国際病院と看護婦養成、教育の発展や公衆衛生活動、それらが日本の看護婦に及ぼした影響、7章では、学校看護婦の養成、職務の実態が述べられる。

総じて、それぞれの活動の場から誕生し、発展してきた看護婦の活動が今後、加速する少子高齢社会において、新たに期待される地域ケア、訪問看護等の役割に結実していく著者の期待が述べられている。

著者が看護史研究をライフワークとされた動機もまた、興味深い。女性労働を代表する資格職である看護師への関心と、看護師から受けた「ありうべき看護の姿」を模索し続ける姿勢への衝撃と述べている。看護職自身である評者の惰性に流される凡庸な姿を顧みて、問題意識の希薄さを痛感する。 

今後も日本経済史からの看護労働の学際的、歴史的分析が進められることで、看護職に対する社会的関心が拡がり、妥当な評価が進むことを願いつつ、看護職に注目される著者への感謝と連帯の気持ちを強くしている。

自らのアイデンティティ確認のためにも、多くの看護職に一読を勧めたい。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年3月17日 新聞掲載(第3181号)
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