カリスマフード: 肉・乳・米と日本人 / 畑中 三応子(春秋社)丁寧な仕事には感歎  強く勧めたい骨太の一冊|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
哲学からサブカルまで。専門家による質の高い書評が読める!
~毎週金曜日更新~

▲トップへ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. カリスマフード: 肉・乳・米と日本人 / 畑中 三応子(春秋社)丁寧な仕事には感歎  強く勧めたい骨太の一冊・・・
書評
2017年3月17日

丁寧な仕事には感歎 
強く勧めたい骨太の一冊

カリスマフード: 肉・乳・米と日本人
畑中 三応子(春秋社)
このエントリーをはてなブックマークに追加
<「国運があがる」、「頭がよくなる」、「健康になる」……。そんなファンタジーをまとって、人々を魅了してきた食べ物がある。それが、「カリスマフード」だ。>

そう帯にはある。あるいは、「肉・牛乳・米は、ときに奇跡の妙薬として特別なパワーを付与され、国の政策とも深くかかわってきた」とも同じ帯の裏面にはある。

これら「カリスマフード」の受容のドラマから、変わりゆく時代、変わらない人間の精神史をたどる、と。

うーん。ぴんとこない。なぜ、わざわざ、「カリスマフード」などと妙な呼称を付与せねばならないのか。「米・乳・米と日本人」というサブタイトルが目に付いたから、手に取ったけれども、メインのタイトルだけだったら、どうでもいい本だろうと思って、見過ごしただろう。

前著の「ファッションフード云々」というのもそうだったけれども、正直にいって、読んだ後も、そのような奇妙な言い方をしなくてはいけないのか、理解できない。中身は真っ当な食の近代史であるから、余計に。

歴史学者の原田信男に『歴史のなかの米と肉』という著書がある。日本の歴史の中で、米と肉を対立する概念としてとらえ、通史を試みたものである。日本食文化史のもはや、古典と言っていい名著である。

この『カリスマフード』は近現代にしぼり、その変遷を事細かに見た試みといえるか。原田の著書でも、如何に食が政治的であるか実感させられるのだけれども、この畑中の本も、これまた帯にあるように「食はときどき、政治よりも政治的」。

まさに。富国強兵のような国の政策であったり、健康観であったり、教育であったりに関連して食が変遷している様子を子細に綴っている。タイトルには戸惑ったか、そのディテールの執拗さには感じ入った。面白い。

今も一般的な牛肉の大和煮の缶詰。軍隊で米飯のおかずになるということで作り出された、和風味つけ缶詰の第一号であるとか(軍隊だから、大和煮等という名付けも)。

豚肉料理を普及させた料理書、東京帝大教授の田中宏農獣医博士の『田中式豚肉調理法』(一九一六年刊)の序文が、「富国強兵は国家存続の基礎にして、又国威発揚の要素なり」という文句から始まる、とか。

明治になって洋装、特に軍服の需要から羊毛の国産化のために、それまでいなかった羊を(特に農家の副業として小頭数)飼育することを奨励したり、それにあわせて羊料理の工夫を、これまた国策として試みさせたり。

詳細を書く余裕がないが、乳にしろ、米にしろ、多くの詳細なエピソードに満ちている。それらの物語の末に、今の私たちの食があるのだということを、そのディテールが語っている。タイトルにはやはり、納得まではいかぬが、その丁寧な仕事には感歎する。新しい視点から食と近代を、食と政治をという興味がおありなら、強く勧めたい骨太の一冊。
2017年3月17日 新聞掲載(第3181号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事の中でご紹介した本