藤原龍一郎「アガサ・クリスティー×短歌」(2017) 編み棒に謎をほぐしてほほえめば好物は砒素よりもシェリイ酒|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2017年3月24日

編み棒に謎をほぐしてほほえめば好物は砒素よりもシェリイ酒
藤原龍一郎「アガサ・クリスティー×短歌」(2017)

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「ミステリマガジン」二〇一七年三月号は、アガサ・クリスティー特集が組まれている。この号ではなんと、歌人たちによるアガサ・クリスティーへのトリビュート短歌という企画が掲載されているのだ。ミステリ小説の雑誌で短歌の企画というのは珍しい。寄稿している歌人のひとり藤原龍一郎は学生時代にワセダミステリクラブと早稲田大学短歌会をかけもち所属していたという経歴の持ち主で(なお当時のミステリクラブには北村薫が、短歌会には後に売れっ子作詞家となる康珍化がいたとか)、まさにうってつけといえる人物だろう。

掲出歌には「ミス・マープルと田村隆一に」という前書きが添えられている。クリスティーが生んだ女性名探偵ミス・マープルと、詩人でありクリスティー作品の翻訳家でもあった田村隆一に捧げた一首ということだ。ミス・マープルはシェリー酒を愛飲したらしいし、そして田村隆一も酒を愛した。「砒素」は殺人の道具となりうる毒であり(『パディントン発4時50分』には砒素が凶器として登場する)、人間の悪意の象徴だ。穏やかに編み棒を操るミス・マープルに託して、簡単に割り切ることのできない人間というものの「謎」をほぐしてゆくイメージがここでは綴られている。

近代小説の自然主義からの脱却に一役買ったミステリと、自然主義を維持し続けた短歌。互いに隔たりのあるジャンルだけれど、だからこそ接近すると面白いスパークがあるかもしれない。
2017年3月24日 新聞掲載(第3182号)
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