【横尾 忠則】何かによって無意識が洗脳されて、時には個を超える。|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの向こう側
2017年3月24日

何かによって無意識が洗脳されて、時には個を超える。

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2017.3.13
 左足に湿疹が二ヶ所でき、それが段々悪化の途を辿り始めたので、玉川病院の皮膚科の岩渕先生に「また出きちゃったんです」と患部を見せると「あらまあ!」とそれほど驚きもされなかったので、安心した。老齢と共に躰も未知の領域に入ってきたらしい。

こう寒いと移動は自転車が中心になる。たまに歩くとタテ揺れヨコ揺れ、時にはフワーッと浮き上りそうになる。アストラル体は誰にも気づかれないので夢の中を浮遊するように成城の町を散策してみたいものだ。

2017.3.14
 実家の玄関に今まで飼ってきた猫達一族郎党に交じって兎が一匹いたが全員、家の中に迎え入れようとしたら、「兎はダメ!」と娘に注意され、親子ゲンカになる夢を見る。

東京ステーションギャラリーの冨田さん、成相さんが脱字を訂正したパロディ展のカタログを持参。ぼくのパロディの原点は子供時代の模写に端を発していて、それが次第に創作物語に変り、そのうち対象に悪意を持ち始め、そして権威失墜の戯画的なものに発展し、古今東西の名画の引用、アレンジ、借用、盗用、剽窃へとメタモルフォーゼを繰り返しながら、のちに自作のパロディに帰還するとかナンチャッテ。

柄谷行人さんと朝日新聞書評委員会送別会にて(撮影・依田彰)
2017.3.15
 映画のラッシュのようなビジョンの断片がコラージュされたような夢を見るが、言葉では伝えにくい。またこの夢は渋谷の映画館前の西部劇風の看板の前に立って夢想する夢だが、この場所は過去に何度も出てくる架空の場所である。

夕方から朝日新聞の書評委員会の送別会に出席する。さすがにこの日の欠席者はいない。ぼくは常連落第生で8年目になる。長期残留組は柄谷行人さん(13年)とぼくと同期生の保阪正康さんの三人。卒業する人達の挨拶が難聴のため全然何言っているのかさっぱりわからん。自分が発した声まで変質されて聴こえづらいんだから自分も他者同様。

2017.3.16
 カメラマンの広川泰士さんに30年ほど前に代々木公園の同じ場所で同じポーズをした再現写真を撮られる。新旧二枚の間の喪失時間を表象したいんだろうという広川さんの悪趣味に、怖いもの見たさに乗せられてしまった。

アレハンドロ・ホドロフスキーに以前会った時、新作を撮っていると言った映画「エンドレス・ポエトリー」が完成。ブニュエルとダリの「アンダルシアの犬」を原点にした彼は「芸術映画」を目指したと言うが、芸術的状況を描いているが、映画が芸術になり得たかということになると、さあどうだろう。彼は以前から日本の古典芸能の手法を活用するが、これを日本人がやると臭くなるがホドロフスキーがやると成功しちゃう。この手法を逆手に取って絵画でやれば映画より上手くいくかも知れない。

2017.3.17
 制作中のシルクスクリーン版画の校正を岡部版画工房の牧島さんが持ってきてくれる。このような共同制作は自力と他力が上手く噛み合えば異化効果を上げる。

瀬戸内さんが一ヶ月以上入院していて明日退院。「自覚症状がないのに手術よ。困るわよね。だけどこの歳で手術なんて恥ずかしいわよ」。それにしてもこの歳(95歳)で耐えられるのは凄い。「そー言うけど早く死ななきゃやっぱり恥ずかしいわよ」。こんな心境になって絵が描ければ、何んでもありで結構面白い絵が描けるんじゃないかなあ。こんな心境にあやかりたいが95歳までまだ15年ある。

2017.3.18
 何の祭日か知らんけど今日から三連休。二度寝のせいか、この間から時々頭痛がするが、この頭痛は頭痛の種なのよねえ。

近所に住む朝日の依田さんと2時間ぐらい聴こえづらい電話で話すが直かに会うべきだったかな。話題は書評少しは書いて下さいよとか、柄谷さんがロスに三ヶ月行っちゃうとか、ナントカさんが会いたいといっているので暖かくなったらいいですか、とかとか。

2017.3.19
 山田洋次さんとお嬢さんと増田屋で昼食。山田さんは台本を書きながら、「何んで自分はこんな変なことを考えたり、馬鹿なことを書くのだろう」と思われるそーだが、ぼくも同じ。「なぜ?」かは自分でも分からない。きっと何かによって無意識が洗脳されているんだろう。だから時にはこのことで個を超えることができるんじゃないかなあ。

山田さんはストレッチへ、ぼくは三省堂で『ヒッチコック映画読本』とカフカの『変身』、『カフカ短篇集』、『絶望名人カフカの人生論』を買う。他の領域から受信するイマジネーションは絵を謎めかす効果がある。

2017.3.20
 夏一番みたいな日。アップダウンの多いコースを30分ばかり散歩。やたらと目につくのは電柱に貼られた行方不明の捜索願いの猫のチラシだ。死んだ猫より行方不明のペットロスは断腸の想いが強い。その感情は内田百閒の『ノラや』が全てを物語っている。ぼくも沢山の猫を行方不明にさせてきた。その都度寝食もままならなかった。猫との出会いは運命で猫によって修行させられていると思うしかない。
2017年3月24日 新聞掲載(第3182号)
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