ハンナ・アーレント「革命について」入門講義 / 仲正 昌樹(作品社)アメリカ革命の精神は蘇ることができるか  理想の政府をめぐるアレントの格闘を読み解く|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年3月24日

アメリカ革命の精神は蘇ることができるか 
理想の政府をめぐるアレントの格闘を読み解く

ハンナ・アーレント「革命について」入門講義
出版社:作品社
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アレント・ブームが一向に衰える気配をみせない。二〇一三年公開の映画『アレント』によって、「凡庸な悪」を痛烈に批判するこの政治哲学者の名は一挙に市民権を得た。一時のブームだと醒めて見る向きもあったが、ヨーロッパでの極右化勢力の拡大、英国のEU離脱、そして年始のトランプ政権の発足という一連の流れと軌を一にして、アレントへの関心がますます高まりをみせている。折しも、アメリカのアマゾンではオーウェルの『1984』と共に『全体主義の起源』もベストセラー入りしたと聞く。「暗い時代」に一筋の光明を投げかけてくれるのは、今やアレントその人なのである。

だが、そんな暗澹たる時代の行く末を真剣に考えようとするなら、手に取るべきはむしろ『革命について』であろう。というのもそこでアレントは、全体主義とは異なる、ありうべき理想の政治体をめぐって格闘しているからである。フランス革命と対比させながら描き出されるアメリカ建国の革命精神の意義は、当のアメリカ国民はもちろん、この混迷の状況を乗り越えようと試みるすべての人々にとって、ひとつの重要な指針となるはずである。もっとも、思想史を横断しながら独特なうねりのある哲学的議論を展開するアレントの思考は、そう容易く読み解けるものではない。アレントに興味をもって書物を手にとったものの、その晦渋さに閉口し投げ出した、という読者も少なくないに違いない。

仲正昌樹氏の『ハンナ・アーレント「革命について」入門講義』は、そうしたアレント初心者の不満を一掃する一冊である。近年氏はアレントのみならず、さまざまな哲学・思想系の入門講義を陸続と著しているが、それらと同じく、本書でも緻密な読解が披露されている。本書はほぼ『革命について』にならい全六章で構成されており、戦争と革命の関係から、創設の意義を経て革命の目的の究明にいたるまで、アレントの行論を一歩一歩辿ってゆく。氏はアレントの『革命について』執筆当時の時代背景や政治的状況にも目配りしながら、ポイントとなる箇所についてはふんだんにアレント自身の文章を引き(引用元はちくま学芸文庫版)、読みにくく躓きやすい箇所があればときに英語原文をも参照して文意をかみ砕く一方、アレントが引き合いに出す概念や思想についても、関連する概念や思想との布置のなかでその内容を解き明かしてくれている。

至れり尽くせりのガイドマップと言えるが、氏はたんに『革命について』の議論をなぞるだけに終始しているわけではない。アレントの解釈に対して、その真意を汲みとりつつ、ときに氏なりの批判が加えられることもある。たとえばルソーが「野生人」を論じた『人間不平等起源論』と「市民」を論じた『社会契約論』とを連続的に理解しようとする読み方や(一〇四、一一四頁)、アメリカにおける相互契約による権力と基本法としての権威の誕生がロックの社会契約論に歪んだ影響を及ぼしたとする見立て(二四二、二四五頁)などについては、氏はアレントに手厳しい。独特であるがゆえに距離のとりにくいアレントの政治思想と向きあうためにも、こうした批判的態度は不可欠であろう。

もっとも、本書全体をとおして氏自身の見解はさほど前面に打ち出されてはおらず、努めて禁欲的かつ真摯にアレントに寄り添い、その思想を読み解こうとしている。派手な解釈を振り回す「現代思想書」に比べれば地味に見えるかもしれないが、しかしこうした姿勢こそ古典に学ぶという哲学の本道を歩むものである。アメリカ革命の精神を「党派」ではなく「小共和国」というボトムアップの「公的自由」に見たアレントにならい、各人が一歩ずつ自らの思考を進め、行為することによってこそ、新たな「始まり」は果たされる。抑え気味ながらも力強いそうした本書のメッセージは、各章末尾に収録された「質疑応答」の行間にも確かに聴きとることができる。巻末のブックガイド、年表も有益である。

この記事の中でご紹介した本
ハンナ・アーレント「革命について」入門講義/作品社
ハンナ・アーレント「革命について」入門講義
著 者:仲正 昌樹
出版社:作品社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年3月24日 新聞掲載(第3182号)
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