女性・戦争・アジア 詩と会い、世界と出会う / 高良 留美子(土曜美術出版販売)隠蔽された現代詩のテーマを追究した評論の集大成|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年3月24日

隠蔽された現代詩のテーマを追究した評論の集大成

女性・戦争・アジア 詩と会い、世界と出会う
出版社:土曜美術出版販売
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高良留美子は、初期から女性・戦争・アジアのテーマを一貫して意識し、詩の本質的課題として実作と批評を展開してきた。自選評論集は一九九二~九三年に既に刊行しているが、一九五九年から現在の書き下ろしに至る評論と発言の中心分を発展させたのが本書である。これらの主題は、極めて重要であり相互に関連しているが、敗戦後の日本の詩、日本社会では決して主流にならず、むしろ排除と隠蔽が繰返されてきた。高良が世界に目を開き、粘り強く詩の運動にも労力を注ぎ、知性と感性を駆使し優れた批評を重ねてきた稀有の業績に驚嘆する。

「Ⅰ 女性詩人」では、石垣りんの女性の老いを書いた先見性と家への嫌悪、茨木のり子の生を捉えるみずみずしさ、新川和江の幻想と日常の二重性の恋歌、滝口雅子の朝鮮体験と他者性の発見などが新鮮だ。在日女性詩人のさきがけの宗秋月の詩のリズムと渾身の賛歌を称えている。女性学の先駆者である水田宗子の著書もふまえフェミニズム批評の多層を感じた。高良が「あとがき」で書いた「女性詩の時間スパンの長さと生命や自然との関わりの深さ」について今後一層評価されるべきだ。

「Ⅱ 追悼」では、茨木のり子が吉本隆明に『戦後詩史論』で「最近小言ばあさんになってきた」と評されたことに怒り、傷ついていたことを明かしている。

「Ⅲ アジア、戦争、植民地支配」は現代詩史の論点として最も注目した。敗戦後の現代詩の主流は、「荒地」の鮎川信夫、吉本隆明の詩論にもとづいた道を歩んできた。〔鮎川信夫「サイゴンにて」からベトナム戦争へ〕の項で詳しく分析されているように、「アジアの民衆への共感の弱さ、自由主義国家の理想化、そして社会主義陣営の全体主義への嫌悪」は、長く詩壇のテーゼとなってきた。〔清岡卓行と『アカシヤの大連』――日本のモダニズムの精神的態度としての〈白紙還元〉〕の項では、〈白紙還元〉が文学でも現実でも政治でも過去忘却の役割をいかに果たしてきたかを喝破している。植民地に対して望郷に浸る主人公に読者は共感する。侵略の反省を迫られることなく、ただ美的情緒に包まれたいとの願望が読者共同体を形成していった。吉本隆明は、敗戦後は詩人の戦争責任問題を突いたが、後に大衆迎合に陥った。昨今は商業資本によって「大衆」も「読者共同体」も偽造される時代で、自省が必要だ。また、金時鐘の長編詩集『新潟』を一九七一年に早くも本格的に論考し、「死者たちさえもが語る」と理解し卓見である。〔『辻詩集』への道〕は詩人にとって今日の問題で、以倉紘平の故郷と国家を同一視した作品への疑問は鋭い。永瀬清子の『辻詩集』収録詩の分裂は軍国主義一元化への移行の実例だ。

「Ⅳ 人ともの」では、「荒地」と並ぶ戦後詩誌「列島」の方法を物質性に置き、自らも物質性を重視してきたと述べている。抒情を物に仮託するのではなく、物そのものから語るのは日本文化では困難な課題だった。さらに、ポストモダンの金融資本主義時代は言語が物から遊離し、金融のように自己増殖する詩が流行っている。

「Ⅴ 詩と会い、世界と出会う旅」では、度々触れられるタゴールの詩の豊かさ、東欧、アラブ世界、ソ連・ロシア、アフリカ、韓国、アジアなど、地球的つながりに目を見張る。これほど積極的に世界を巡り、詩人と交流し、詩の紹介に努めた軌跡は、日本の詩の宝物だ。

「Ⅵ 詩誌と詩人会、詩運動へ参加」は、「詩組織」「現代詩の会」「詩と思想」など、苦労と心痛を負うこともたくさん起きたのに責任感に敬意を抱く。

「Ⅶ 現代詩の地平」の詩壇時評では、もてはやされた女性差別詩をきちんと批判した勇気は尊い。

本書中の「この前の戦争のときは詩から崩れた」との花田清輝の言葉は恐ろしい記憶であり予言だ。隠蔽された真の主題について高良留美子が取り組んだ貴重な仕事は時代に対峙し、実に多くの光線を発している。

この記事の中でご紹介した本
女性・戦争・アジア 詩と会い、世界と出会う/土曜美術出版販売
女性・戦争・アジア 詩と会い、世界と出会う
著 者:高良 留美子
出版社:土曜美術出版販売
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年3月24日 新聞掲載(第3182号)
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