あの人に会いたい 器作家・デザイナー イイホシユミコさん (上)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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あの人に会いたい
2016年7月15日

あの人に会いたい 器作家・デザイナー イイホシユミコさん (上)

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器を作る人を「陶芸家」と呼ぶが、イイホシユミコさんは陶芸家とは少し違う。暮らしの中で使いやすい器とはどんなものか? そのうえで自分の作りたいものは何なのか? このことを自問自答しながら、自分でろくろを回して作品にする“ハンドクラフト”。そしてもう一つ“プロダクト”と呼ばれる量産する器づくり。この二つを軸にしながら独自の世界観を表現している。東京・原宿に直営店を持って一年半。イイホシさんにお会いしたくてお店にお邪魔した。

イイホシユミコさん
イイホシユミコさんが作る器を初めて見たのは、東京・青山にあるスパイラルマーケットの一角だった。コーヒーでも紅茶でもミルクでも、何でも似合いそうなシンプルなフォルムのマグカップ。磁器だからか、肌はとても薄いのに安定感、安心感がある。興味はあったが、その時は買わずに見て帰るだけにした。

それからしばらくして、この連載でも取材させていただいたフリー編集者の一田憲子さんからの、「イイホシさんの本を作りたい」という申し出が企画となり、これが出版の運びとなったのが二〇一二年六月のこと。

黒一色の表紙にタイトルが『今日もどこかの食卓で』。文字はすべて白で抜いて、よしもとばなな(現在は吉本ばなな)さんの推薦文を帯にした。内容は、イイホシさんの器づくりへの考え方、ここに至る道のり、そしてイイホシさんの衣食住が伝わるライフスタイル。「選び抜く」という姿勢が伝わる住まいの写真と文は、雑多なものに囲まれて暮らしている私にとっては、何だか近寄りがたく、「いい加減を許さない人」、そんな印象を強く持ったことを覚えている。

使う者を惹きつけてやまないマグカップ
この本の出版記念のイベントを、渋谷のあるセレクトショップで行い、この時私は初めてイイホシさんと話をして、グレーのマグカップと小さなトレイを購入した。今でもこのマグカップは、毎朝のコーヒーには欠かせなくなっているし、その後少しづつ買い足したシリーズも、食卓に頻繁に登場している。 

それから二年後、この本が海を渡って、中国語で出版されることになる。出版記念のイベントとして、台湾の台北で作品の展示販売もするという。台湾のお客様が『今日もどこかの食卓で』という本、そしてイイホシさんの作る器にどんな反応を示すのか、ぜひこの目で見たくて、二泊三日の台湾行きを決めた。

「あの時は本当に楽しかったですね」。今回の取材で、お互いの口から出たのがまずこの言葉だった。小さな工場がひしめく一角に、四階建てのセレクトショップがあり、選び抜かれた雑貨や服が並んでいる。一階はコンクリート打ちっぱなしのスペースで、ここが会場となった。本はどんどん売れ、作品も値の張るハンドクラフトのものから売れてゆく。台湾の方々がイイホシさんの器で、食卓を楽しみたいという思いが強く伝わったイベントだった。

まる二日半、イイホシさんとスタッフの方、そして主催者の方と一緒に過ごしたが、近寄りがたい存在だったイイホシさんが、とても身近に変わった貴重な時間。お客様に接するときの真摯な姿勢。みんなで食事に行くとよく食べ、よく笑い、いつも笑顔でいる。「なんて気さくでかわいい人なんだろう」。ご飯を一緒に食べることは、その人を知るうえで本当に大切なことなんだと、あらためて感じた時間でもあった。

『今日もどこかの食卓で』(2012年、主婦と生活社刊)
それからのイイホシさんは、ドイツ・フランクフルトでの見本市に出展を決め、その半年後はロンドンでの個展も実現してしまう。そしてそれは今も継続している。「海外での評価は、日本でお客様が買ってくれるのとはどんなところがちがいますか?」と聞いてみた。

「ロンドンで特に感じたことですが、生活の道具にあちらの人たちがとても関心を持っていて、作品自体を評価して、お金を出してくれるということがとてもうれしいんです。だって作り手がどんな人間なのか全く知らずに、作品だけに向き合ってくれるわけですから」

イイホシさんは自分の存在より「yumiko iihoshi porcelain」という小さなメーカーの作品が世に出ていくことのほうが、ずっと価値があると考えているのだ。

イイホシさんが、なぜ器づくりを仕事にしたいと思ったのか、どんな道のりを経て今があるのか、この話は次号に譲る。


2016年7月15日 新聞掲載(第3148号)
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