社会的分断を越境する / 塩原 良和(青弓社)冷静な分析と解読 現在を「考えなおす」うえで、必読の論集|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年3月31日

冷静な分析と解読
現在を「考えなおす」うえで、必読の論集

社会的分断を越境する
出版社:青弓社
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「世界を再構想する。」「他者と出会いなおし、世界を想像しなおす。」この論集は、様々な違いをもつ他者と「いま、ここ」で、そして「これから」どのように共に在ればいいのかを考えるうえで、基本となる魅力溢れる言葉を語り、考えをめぐらせることから始まっている。長野、宮城、バンクーバーにおける移住者たちのトランスナショナリズムとそこにおける媒介者の意義。戦間期の日米経済人交流を事例とする民間外交と移民のありよう。二十世紀初頭のアメリカ諸港における日本海員の「脱船」という事実を検討する越境の海事史。神戸の白系ロシア人の事例から考える「避難民」としての越境。韓国・朝鮮人への蔑称から探る「継続する植民地主義」。ヘイトスピーチでの「分断」から考え、反知性主義といかに向き合えるかを模索する論考。反税運動と移民排斥運動にみる福祉ショービニズムの考察。風刺と宗教。日本におけるブラジル人集住地区のリアリティを考察し「多文化共生」概念がもつ意味変遷を問いなおす論考。グローバル化時代の希望として「根のあるコスモポリタニズム」を構想する論考。阪神・淡路大震災を「想像し続ける」歴史実践のために何が必要かを「一九九五年生まれ」の空間性と帰属感覚から提起する論考。そして序章で展開される「越境的想像力」という主張。それぞれの章が具体的な事実をもとにした論考であり、読み応え十分だ。かつて、そしていま、人々がどのように豊かに想像力を働かせ、多様で多層な「境」を超えて生きてきたのか、また生きようとすべきなのかをめぐる思いがそれぞれの論考の冷静な分析や解読の行間から溢れだしてくる。まず言えることがある。異質な他者が自らの生活世界へ侵入してこないよう、様々な「壁」を構築する「意義」がさも意味があるかのように語られ、異質な他者への差別的言葉が平然とツィッターなどネットで語られる現在を「考えなおす」うえで、必読の論集だ。

私は本書を読みながら、二つのことを考えていた。一つは「越境的想像力」という言葉が持つ深さと冷静さだ。「境」を超え異質な他者と出会う時、これまで自分を支えてきた様々な価値や倫理、常識を「作り変える」必要に迫られるだろう。そうした営みがない限り、「出会いなおす」ことなどできないからだ。そしてその過程には終わりがない。他者と出会い、他者を理解したいという欲望。その欲望の実現こそ、私たちに社会で生きることの喜びを与えてくれる。しかし他方で、他者はそんな簡単に理解できないことも事実だ。安定した日常を生きたいし「そんなに変わる必要もない」という思いに支配される時、他者と特に「出会いなおす」必要を私たちは感じなくなるのではないだろうか。こうした自分とどう私たちが折り合いをつけることができるのだろうか。また他者を理解することは、同時にそれまでとは違う自分を構築し続けるという営みでもある。つまり「越境的想像力」に魅力を感じ、それを指針として日常を生きようとする瞬間、私たちは必然的に自分が「変わりつづけ」ることの意味を反省し、他者からも「出会いなおす」ことができる自分へとどう「つくりかえる」ことができるのかを考えざるを得ないだろう。こうした営みは、象徴的な差別行為を憎んだり、見事な共生の事実に感動したりする一時の思いだけで維持することなどできないのだ。その意味で「越境的想像力」は、私たちの日常により深くより静かに染み透っていくことで、確かな「力」となっていくのではと思う。ではどうしたら、いいのだろうか。考えていた二つ目だ。この論集はいったい誰に向けて編まれたのだろうか。編者たちは日常を生きる私たち一人一人の他者との「出会いなおし」を要請している。私もそのとおりだと思う。さらに編者たちに願う。新書やブックレットなどより手に取りやすいメディアで、よりわかりやすくより多くの私たちに「越境的想像力」の深さや冷静さをもっと語ってほしいと。

この記事の中でご紹介した本
社会的分断を越境する/青弓社
社会的分断を越境する
著 者:塩原 良和、稲津 秀樹
出版社:青弓社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年3月31日 新聞掲載(第3183号)
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