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Forget-me-not
2017年4月18日

Forget-me-not⑮

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モンタナ大学に留学していた頃に暮らしていたミズーラのダウンタウンに在るアパートで。ⒸKeiji fujimoto

眼下のクラークフォークリバーが冬の陽の光を浴びて銀色に輝く。僕たちは大学の裏山に登りミズーラの街を眺めていた。

アメリカに留学をした21歳の秋、初めての学期にとったフォトジャーナリズムのクラスで隣の席に座っていたのが一つ年下のロバートだった。カメラに詳しいこの男は、テレビは見ないし漫画も読まない、何よりも自然に囲まれていることが大好きな青年であった。

山の中に住みながら何でも手作りをする彼はまるで、自然への探究心からひとり森にこもり生活をすることを選んだソローの様だと勝手に思っていた。

午後の日差しがいっそう強く僕たちを照らしだす。隣に目をやると、白い肌を焼かれて少し赤みがかったロバートの顔があった。若く細面で、無垢な表情。その目元にはまだ素朴さが残っている。

僕はいつもの様にそっと衝動を抑えると、まるでクラスで批評をする時の如く、客観的な立場へと自分の欲望を追いやった。

今でも山の中で青年に出会うとロバートとのことを思い出すことがある。自然や動物を愛する心、山での生活などなど。僕の記憶の中ですっかりと美化されたあの頃の青年は、今なにをしているのだろうかなどと考えてしまうのだ。
2017年4月14日 新聞掲載(第3185号)
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