水上比呂美『ざくろの水脈』(2009) 鰐の行く黒縄ぢごくわれの行く焦熱ぢごく 朝焼けきれい|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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現代短歌むしめがね
2017年4月18日

鰐の行く黒縄ぢごくわれの行く焦熱ぢごく 朝焼けきれい
水上比呂美『ざくろの水脈』(2009)

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俳句より長いのになぜ短歌なのだと言い出す馬鹿な人がたまにいるのだが、万葉の時代には盛んに作られていた長歌というものがあり、それと比較しての短歌なのである(そもそも俳句ができたのは江戸時代で短歌よりずっと後だ)。長歌は五・七・五・七……と繰り返して最後は七・七で締める。そして五・七・五・七・七の「反歌」を最後に添えて完成とするという形式だ。

短歌よりも音数が多いぶんストーリー性豊かにできる形式だけに、物語を描きたいときには現代の歌人も長歌を作ることがある。掲出歌は、「美男の鰐」というタイトルの長歌に添えられた反歌である。ペットショップで出会った美しい鰐に一目惚れした女性が鰐と同棲するが、やがてその愛する鰐を殺してしまうというストーリーの長歌となっている。この鰐はもちろん男性のメタファーなのだろうが、鰐を飼う女性というモチーフは岡崎京子の漫画「Pink」(1989)から影響を受けていることは想像に難くない。「Pink」では鰐を殺すのは主人公の継母であるが、「美男の鰐」では主人公が自ら手にかけている。鰐という動物の持つ暴力性とフリークス性は、男性性の極端なデフォルメだろう。

黒縄地獄は殺生・盗みを働いた者が、焦熱地獄はそれらに加え邪淫や飲酒を働いた者が落ちる地獄である。殺された鰐もまた、無謬の存在ではなかったことが示唆されている。ともに罪を犯し、一緒に地獄に落ちることに究極の愛を夢想する物語である。
2017年4月14日 新聞掲載(第3185号)
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