本へのとびら 岩波少年文庫を語る / 宮崎 駿(岩波文庫)宮崎駿著『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』  帝京大学 石山 奈緒子|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年4月17日

宮崎駿著『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』 
帝京大学 石山 奈緒子

本へのとびら 岩波少年文庫を語る
著 者:宮崎 駿
出版社:岩波文庫
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この本では、子どもたちに読んでもらいたい岩波少年文庫が50冊紹介され、著者の児童文学への思いが熱く語られている。著者の児童文学との出会いやアニメーションとの繋がり、宮崎駿の考える〈児童文学〉とは何か、〈児童文学〉が子どもたちに伝えたいことはどのようなことか、著者の強い思いと共に伝わってくる。

一番印象に残ったのは、本文中の「大切な本が、1冊あればいい。」という言葉である。私にも大切で大好きな本はもちろんあるが、本はたくさん読めば読むほど自分のためになり、好きな本はたくさんあった方がいいという考えを持っていた。もちろん著者は、大切な1冊のみを読んでいけばいいということを言っているわけではない。“自分にとっての大切な1冊”に出逢うことを願っているのだ。大切な本がたくさん無くとも、様々な本を読むことができなくとも、自分にとってかけがえのない大切な1冊の本があれば、人は本の世界に入り込んで読もうとするし、生きていく上での心の支えになるだろう。また、大人が子どもに「効き目があるから」と本を勧めたからといって、必ずしも子どもがその本を読むとは限らないし、何よりも本を読んで効き目があったと分かるのは何年も経った頃だというのだ。この考え方は私の心を打ち、私の本への向き合い方に変化をもたらしてくれた。

自分にとって大切な存在になったり、読んでいて本の世界に引き込まれてしまったり、涙を流したり、怒ったり、幸せになったり……本がその人にどのような衝撃を与えるかは人それぞれである。多くの人々、特に子どもたちにそのように思える本に出逢ってほしいという著者の思いはとても素敵だ。

また、〈児童文学〉とはどのようなものかという考え方にも私は心を打たれた。「児童文学はやり直しがきく話である」「子どもにむかって絶望を説くな」という言葉はとても強い。思い返してみると、確かに今まで読んできた児童書はやり直しがあったり諦めや絶望を描いたものはなかった。児童文学は一種の子どもたちへの願いが詰まった本なのだ。子どもたちが本を読んで、自分という存在を、生きることを大切にしていくための入口なのである。どんなに辛いことがあっても、前に進めないことがあっても、君には乗り越える力ややり直す機会があるのだと児童文学は全ての子どもたちにエールを送る存在なのだ。

本書は、著者の勧める岩波少年文庫50冊の紹介とともに、作品の表紙や挿絵も付けられ、堅苦しくない文章でとても読みやすい。また、児童文学は、子どもたちはもちろんのこと、大学生や大人だって読むことのできる本であると改めて気づかせてくれる。著者の考えや思いを胸に、まだ読んだことのない児童文学、本たちに触れてみたい、出会ってみたいと刺激を与えてくれる1冊である。
2017年4月14日 新聞掲載(第3185号)
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