料理研究家・田中伶子さん(上)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年4月25日

料理研究家・田中伶子さん(上)

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暮らしをつかさどる主要な要素として「衣」「食」「住」があるが、なかでも「食」は命と直結した最も基礎的な活動。日々健康に過ごすためにも、三度三度の食事をおろそかにすることはできない。
長年に亘って家庭料理を多くの女性たちに教え続けている田中怜子さん。婦人誌に料理を紹介し始めたのは、今から五〇年も前のこと。

田中伶子さん
一九七七年、主婦と生活社の社員として採用された私は、まず料理編集部に配属になる。当時は婦人四誌と呼ばれる『婦人倶楽部』『婦人生活』『主婦の友』『主婦と生活』がそれぞれに隆盛を極め、主婦と生活社では特に料理書が飛ぶように売れ、私も猫の手も借りたい編集部の末席を汚していた。

撮影時の料理やテーブルのスタイリングも全部編集部内で行った。家に大切にしまってあったお重を持ち込んで、お節料理の撮影をしたことを今でも懐かしく思い出す。原稿も自分たちで書き、掲載のレシピをすべて家で繰り返し作った。そうして出来上がった書籍への愛着は大きく、編集者としての基礎を、私は料理編集部で徹底的に叩き込まれたと思っている。今回取材させていただいた田中伶子さんには、そうした料理のレシピを紹介いただいていたが、当時は知る由もなく、あとで私の先輩方が田中さんを担当していたことを聞いた。

    *

田中さんとの出会いは、ひょんなことがきっかけだった。一人でもふらっと立ち寄ることができる割烹が会社近くにあるのだが、その女将が、私に一本の電話をくれた。「以前あなたの会社でたくさんお仕事をなさっていた料理の先生なんだけど、家庭料理をわかりやすくまとめた本を、今までの集大成として作りたいと言ってらっしゃるの。一度話をきいてくれない?」

それが四年前のこと。それから間もなく田中さんのクッキングスクールに出向いた。銀座の中央通りから程近い、ビルの二階の教室は、ステンレスの調理テーブルがいくつも並び、スタッフがきびきびと次の教室の準備をしている。どのくらいの生徒さんが通っているのだろうと聞くと「年間で四〇〇人から五〇〇人。月曜日から土曜日まで午前、午後と毎日二回のレッスンをしている」という。銀座に教室を移したのは、当時から遡って十五年くらい前のことだというが、一年ごとに修了書を渡し、三年かけて終了するというスタイルは、教室を始めた五〇年以上前とほとんど変わりない。教える内容は日々家で実践できる家庭料理が中心で、カリキュラムには、肉じゃがやカレーなど、みんなが知っている料理名がずらりと並んでいる。

一昔前はお稽古事として茶道や華道、そして料理を習う女性たちは多くいた。自宅での料理教室も数多く存在し、花嫁修業の一つとしてごく当たり前に受け入れられていた時代だった。

しかし今や世の中は大きく変わり、働く女性が増え、お稽古事に時間を割く環境を確保するのはなかなか難しい。そんな時代にも生徒の数がほとんど変化することなく、今に至っている。なにが「田中伶子クッキングスクール」の売りとなっているのだろう。

このことは、新しい書籍を作るうえでの大きなヒントになりそうだった。お話をうかがっているうちに、田中さんの家庭料理に対する考え方が徐々に見えてきた。とにかく「手早くできて、お金がかからず、そのうえ美味しい」という三つが、非常に明確に打ち出されている。そして、手を抜いてはいけないところは徹底して教えていく、という姿勢。

それぞれの出版社には得意分野があり、主婦と生活社では特に料理書が、読者にも書店からも非常に信頼感を持っていただけている。だからこそ中途半端なものを出すことは許されず、作り手側に「これは売れる!」という確信がなければ、世に出すことは難しい。
 「五〇年前、最初に仕事をいただいたのが主婦と生活社でした。だから、できれば同じ会社から自分の集大成となる本を作りたい」という田中さんの思いを、私はなんとか実現させたかった。料理教室で生徒さんに教えている、そのままのような、基本レシピばかりをまとめて一冊の本にする。不要な情報を極力排して、伝えるべきことを前面に出す――。

そんな基本のラインが決まり、徐々に製作が進められ、半年くらいかけてようやく本が出来上がった。

そしてその『一生作り続けたいおかず』は、二〇一四年の「料理レシピ本大賞」の入賞を果たすという、大きなおまけまでついてきたのだった。 (次号につづく)
2017年4月21日 新聞掲載(第3186号)
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