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漢字点心
2017年4月25日

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「われは思ふ、末世の邪宗、切支丹でうすの魔法」と始まるのは、北原白秋の『邪宗門秘曲』。西洋的な耽美主義をむずかしい漢字を多用しつつ表現したこの詩の中に、「珍酡(ちんた)」という酒が登場する。なんでも、室町時代に日本に伝えられた赤ワインのことで、「チンタ」とは、ポルトガル語で「赤」を意味するtintoに由来するのだという。

「珍酡」は、その「チンタ」に対する当て字。かつては赤ワインが珍しかったことはもちろんだが、「酡」の使い方もおもしろい。これは、「酒に酔って顔が赤くなる」という意味。中国では、紀元前の漢詩にも用例がある、由緒正しい漢字である。

つまり、「珍酡」という当て字では、南蛮渡来の珍しい酒であることが表現されているだけではなく、酔って赤くなるという漢字を用いることで、その酒の色合いまでも響かせてあるのだ。白秋の独創というわけではないが、なかなか奥の深い当て字である。
2017年4月21日 新聞掲載(第3186号)
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