内と外からのアメリカ―共和国の現実と女性作家たち / 大井 浩二(英宝社)現実と理想の大きなギャップと精神的苦闘の痕跡を鮮やかに |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年4月24日

現実と理想の大きなギャップと精神的苦闘の痕跡を鮮やかに

内と外からのアメリカ―共和国の現実と女性作家たち
著 者:大井 浩二
出版社:英宝社
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大井浩二氏といえば、ホーソーンや自然主義文学など十九世紀アメリカ文学の古典はもとより、フロンティアやユートピアといったアメリカ文学でおなじみのテーマを取り上げた多彩な批評書や論集の数々を精力的に世に送り出してきたことで知られている。しかし氏のもっとも顕著な業績といえば、近年のライフ・ライティング研究の隆盛以前から、手紙や伝記、日記といった、小説や詩、戯曲などの主要なジャンルの陰に隠れ、いわば二次資料的扱いを受けてきた私的書き物の分野にいち早く注目し、それらの精力的な研究と紹介を行ってきた点にあろう。とりわけ日本ではいまだ取り上げられることが少ない作家たちのエクリチュール・フェミニンを長年分析してきた氏の成果は、後進の研究者たちに大きく道を切り開いてきたと言ってよい。

本書『内と外からのアメリカ――共和国の現実と女性作家たち』は、「大衆レベルの想像力に関心を抱く一方で、文学作品をカルチュラル・ドキュメントとして読むという立場にこだわってきた自称オールド・ヒストリシスト」(264)としての、氏の関心と研究手腕が如実に示された、きわめて刺激的で興味深い十九世紀アメリカ文学・文化の研究書である。分析対象となっているのは、やはりこれまであまり読まれてこなかった女性作家たちの作品である。第一部では、新しい共和国として出発した一八二〇年代、三〇年代のアメリカを訪問し、その観察記を出版した三人のイギリス人女性旅行者、ファニー・ライト、ファニー・トロロプ、ファニー・ケンブルが取り上げられ、彼女たちの残したアメリカ体験記が詳しく検討される。また第二部は、「セネカフォールズ以後の白人女性作家たち」と題され、文学史でもほとんど名前の出てこない数多の女性作家たちが残した作品に光が当てられ、彼女たちの作品にいかに十九世紀当時の「白人男性至上主義のアメリカ社会」への異議申し立てが陰に陽に描きこまれているかが探られる。

一八四八年にニューヨーク州セネカフォールズで開かれ、女性解放運動の端緒となったと言われる女性権利大会では、会議発案者の一人であったエリザベス・C・スタントンによって、「すべての人間は平等につくられている」と謳い上げたアメリカ合衆国の独立宣言をもじって、「すべての男女は平等につくられている」と唱える〈所感の宣言〉が行われた。そして「人類の歴史は、女性に対する男性の度重なる権利侵害と横暴の歴史であった」と断じられた。当時の女性たちにとって「美徳の共和国アメリカ」という理想とは裏腹なその現実を、立場を異にする英米の女性作家たちがどのように受け止めていたのかを検討することが、本書の基本テーマとなっている。前著『エロティック・アメリカ――ヴィクトリアニズムの神話と現実』(英宝社、2013年)でも、氏の恩師である佐伯彰一氏が、手紙と日記と自伝を「パーソナルな芸術」と呼び、手紙の「醍醐味の一つは、思いがけない人物の素顔にふれ、ナマナマしい肉声を耳にした思いを味わわせてもらう所にある」(13)と論じたことが言及されていたが、本書もまさに、思いがけない人物の素顔にふれ、生き生きとした肉声を耳にした思いを味わわせてくれるとともに、彼女たちが生きた時代の現実と理想との大きなギャップを、また彼女たちの精神的苦闘の痕跡を、鮮やかに浮かび上がらせてくれる、発見の喜びに満ちた一冊と言えよう。
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2017年4月21日 新聞掲載(第3186号)
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この記事の中でご紹介した本
内と外からのアメリカ―共和国の現実と女性作家たち/英宝社
内と外からのアメリカ―共和国の現実と女性作家たち
著 者:大井 浩二
出版社:英宝社
以下のオンライン書店でご購入できます
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