世界を変える「デザイン」の誕生―シリコンバレーと工業デザインの歴史 / バリー・M・カッツ(CCC MEDIA HOUSE)シリコンバレー独自の活気  その興亡をデザインの視点から振り返る|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年4月24日

シリコンバレー独自の活気 
その興亡をデザインの視点から振り返る

世界を変える「デザイン」の誕生―シリコンバレーと工業デザインの歴史
著 者:バリー・M・カッツ
出版社:CCC MEDIA HOUSE
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米国カリフォルニア州ベイエリア・サンノゼ近郊にシリコンバレーと呼ばれる地域がある。かつては多くの半導体企業が産声を上げ、現在では複数の世界的なIT企業が拠点を置くこの地域では多くの企業がしのぎを削ってきたのだが、エンジニアに比べて、デザイナーの貢献は軽視されがちであった。本書は、シリコンバレーにおける様々な興亡をデザインという視点から振り返る意欲作である。全体は六章からなり、最後の結論以外に後半の四~六章にも個別の結論を配する変則的な構成となっているが、その中でも私には、第一、三、四章が面白かった。

第一章「喜びの渓谷」の主役と呼ぶべき存在がヒューレット・パッカード(HP)社のカール・クレメントである。現在でこそ世界屈指のPCメーカーとして知られるHP社も、戦後間もない頃には小さな計測器メーカーに過ぎなかった。クレメントがこの小さな会社で工業デザイナーとして頭角を現し、またHP社が台頭していく一九五〇年代は、当時まだ「喜びの渓谷」とも呼ばれていたシリコンバレーの黎明期とも大きくシンクロしている。

第三章「大転換」の主役はあのスティーヴ・ジョブスだ。その波乱に満ちた生涯は数本の映画や評伝によって広く知られているが、起業家としての側面がしばしば注目されるジョブスは、実はデザインに対しても人一倍強いこだわりを持っていた。ジョブスのデザインというと、アップル復帰後の「iMac」や「iPhone」がまず思い浮かぶが、本章を通読すると、初期の「Apple1」や「LISA」の頃から彼特有のデザイン思考が発揮されていたことがわかる。

第四章「デザインの系統」は、アタリ社についての記述が特に面白い。アタリ社は一時代を築いたビデオゲームメーカーで、最盛期の一九七〇年代には「アタリアン」とも呼ばれる多くの優れたデザイナーや技術者が在籍していたが、彼らが試みた様々なデザイン上の実験は、長らくデザイン界を支配していた「芸術+エンジニアリング」というバウハウス的な枠組みを更新するものでもあった。

もちろん、紙幅の関係で言及する余裕はないが、他の章も多くの興味深い論点を含んでいる。

ともあれ、同じ職場に長くとどまる者は稀で、多くのデザイナーが転職や起業を繰り返し、新しい試みに挑んできたことには驚く。著者はシリコンバレーが特別な場所であることを強調しているが、その独特の活気は終身雇用とは対極にある流動性に由来しているのかもしれない。(髙増春代訳)
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2017年4月21日 新聞掲載(第3186号)
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