火の科学  エネルギー・神・鉄から錬金術まで  / 西野 順也(築地書館)火なくして人類の発展はない  火を中心に据えると歴史の見通しがよくなる|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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読書人紙面掲載 書評
2017年5月1日

火なくして人類の発展はない 
火を中心に据えると歴史の見通しがよくなる

火の科学  エネルギー・神・鉄から錬金術まで 
著 者:西野 順也
出版社:築地書館
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福岡県北九州市戸畑区で毎年七月に行われる戸畑祗園山笠は、博多祗園山笠、小倉祗園太鼓に並ぶ福岡県の三大祭りの一つで、国の重要無形民俗文化財にも指定されている。特に有名なのは、夜に行われる四基の提灯山笠による地区対抗タイムレース。提灯を十二段までピラミッド型に組んだ御輿を数十人の男衆が担ぎ、飛幡八幡宮近くの公園の周りを早足で練り歩くのだ。「ヨイトサ」のかけ声、リズミカルな太鼓、鐘、笛の音とともに、地域の腕自慢の男たちが顔を歪ませながら、高さ十メートルにもなる三百九個の提灯山笠を運んでいく姿には、人の心を沸き立たせるものがある。火にまつわる思い出として、真っ先に浮かぶのが、筆者が高校時代まで過ごした戸畑の祭りの光景である。

火と祭りの関係は切っても切り離せない。疫病退散を祈願する戸畑祗園の他にも、五穀豊穣や穢れを祓うなどの目的から火が焚かれる儀式は全国各地で見られる。火の何が神聖さにつながるのか、子供の頃から気にかかっていた謎が、本書を読んで解ける気がした。

火による加熱調理で、人類は食べられる種類を増やした。消化効率も上がって食事時間が減り、より長い時間を狩猟に費やした。夜行性の猛獣を火で遠ざけ、それで生まれた余暇で集団の交流を深めた。暖を採る手段としても火が活躍し、人類は北への進出を遂げた。火なくして人類の発展はなかった。火が崇拝の対象になるのも当然なのだ。

本書は「第1部 暮らしと火」「第2部 人類と火」の二部構成。いずれも火にまつわる歴史を過去から現代へたどっていくが、第1部はどんな技術革新がどこで生まれ、どう伝播していったのかに焦点を当てる。煮炊きのための竈、鉄や青銅の製錬のための炉、武器としての火薬、銃、大砲、動力への変換手段としての蒸気機関や内燃機関など火を使う道具がどう発展してきたのかが語られる。

それに対して第2部は、古代遺跡を手がかりに、火が人類の文化にどんな影響を与えたのかを読み解く形で進む。第1部で技術の通史が頭に入ったおかげか、第2部には「なるほど」と合点がいく箇所が多かった。

世界全体を対象にしながらも日本の歴史の話題を多く取りあげている点も嬉しい。弥生時代、朝鮮半島からもたらされた製鉄技術が日本で発展した背景に、炉を高温にするための燃料となる木材資源が豊富にあったこと、その後、製鉄技術や稲作技術を手にした人々が権力を握っていったことなど、火を中心に据えると日本史の見通しが随分よくなるものだと感心した。

十年ほど前まで喫煙者だった筆者にとってライターは最も火を身近に感じさせてくれる道具だったが、煙草も今や電子化されようとしている。日常的に火を見る場面はどんどん減っているのだ。しかし火の利用システムがブラックボックス化されただけで、火はどこかで燃えつづけ、今なお人類を人類たらしめていることを本書は気付かせてくれる。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年4月28日 新聞掲載(第3187号)
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