聞く力、つなぐ力――3・11東日本大震災 被災農家に寄り添いつづける普及指導員たち / 古川 勉(農文協プロダクション(発売:農山漁村文化協会))「仕事」と「復興」の意味を再確認するために|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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ここを伝えたい!本の編集者より
2017年4月27日

「仕事」と「復興」の意味を再確認するために

聞く力、つなぐ力――3・11東日本大震災 被災農家に寄り添いつづける普及指導員たち
著 者:古川 勉、行友 弥、山下 祐介、宇根 豊
編 集:日本農業普及学会
出版社:農文協プロダクション(発売:農山漁村文化協会)
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東日本大震災直後、食品の流通が不安になったこと、放射能汚染が問題になったことは記憶に生々しく残っています。それではあの時、農業の生産現場はどうだったのか。私たちはほとんど知らないことに気づきます。地震、津波、原発事故と続くなか、被災農家の支援を開始したのが「普及指導員」でした。「普及指導員」とは耳慣れないかもしれませんが、農業技術や経営の向上を目的に現場に配置される都道府県の公務員です。

本書は、この普及指導員たちがつぎつぎに生じる問題にどのように対処し、被災農家の復旧・復興をどう支援していったのか、そして自分たちの仕事の意味をあらためてどう位置づけたのか――岩手、宮城、福島三県の普及指導員への聞き書きとともに、山下祐介(首都大学東京准教授)ほか、古川勉(元岩手県大船渡農業研究センター所長)、行友弥(元毎日新聞編集委員、農中総研特任研究員)、宇根豊(農と自然の研究所代表、元福岡県農業改良普及員)らの論考からなります。

震災当時の農家たちの記録はさまざまありますが、普及指導員について公刊されているものはほとんどありません。そうした意味において本書はたいへん貴重なドキュメントといえます。また、被災農家を目の前にした普及指導員は業務上の公式な位置づけを「大きく踏み越える活動」(行友弥)をしたこと、「『共感』と『共苦』」(宇根豊)にもとづいて「話を聞く」ことが活動の原点であったこと、そして「『協働』の精神が重要」(古川勉)であったことも明らかにされています。

なかでも「聞く」ことの重要性は、聞き書きに応じた普及指導員たちが言葉を変えながらなんども強調しています。震災によってすべてを失った農家の「話を聞くしかなかった」という発言には胸をうたれます。このひたすら話を聞くことをつうじて被災農家の再起を後押しし、さまざまな部署や人に「つなぐ」ことを通じて復旧・復興へと導いていったのが、普及指導員でした。この「聞く」こと「つなぐ」ことは、他者の支援を職業とするすべての人に共通することでしょう。この点から、本書は仕事本の一冊として読んでいただけると思います。

本書のまなざしは、普及指導員という公務員のあり方をつうじて、復興のあり方――公(オオヤケ)と私(ワタクシ)の関係――も問うています。オビに示した「もっと個々のワタクシの思いや願いをオオヤケにつなげるような、そんな復興のあり方が求められなくてはならない」(山下祐介)という問いかけは、震災から7年目を迎え、ともすれば行き先が不明瞭なまま復興の「加速化」が強調されるいまだからこそ、あらためてわたしたちが噛みしめるべきものではないでしょうか。そして、「その最前線に普及指導員と農家の関係はある」(同)のです。こうした意味において、本書はもうひとつの復興論とも言えるものになっています。
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