追悼・長友啓典さん 「そんなもんエエネン」|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年5月9日

追悼・長友啓典さん
「そんなもんエエネン」

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長友啓典さんが急逝した。そのすこし前まで週一回はゴルフ場に行っていた。K2という制作会社の社長兼アートディレクター、そして自分ひとりで創刊した季刊誌「クリネタ」編集長としての、二種類の激務……。高校時代からラグビーで鍛えた体は、本人も自信を持っていたはずだ。残念だったと思う。享年77歳。

むかし、デザイン界に「日宣美」という組織があった。グラフィック・デザイン界の天皇といわれた亀倉雄策、法皇といわれた山城隆一たちが中心となって、広告デザイン界の発展のために立ちあげた。そして新人発掘、登龍門の舞台となったのが日宣美展だった。

現在、ベテランとして活躍しているグラフィック・デザイナー、イラストレーター、アートディレクター、コピーライターたちは、ほとんどが、この日宣美展がデビューの場になっていた。

ところが、文化大革命、パリ五月革命、ヒッピー文化の影響をうけ、日宣美解体をさけぶデザイナー、イラストレーターたちの突き上げで、1970年に、日宣美は解散した。 長友さん(筆者はいつもこう話しかけていたので…)も、亀倉が設立した日本デザインセンターで働いていた。もちろん日宣美賞も受賞している。

その動乱の時代の風を感じて、長友さんを中心として浅葉克己、青葉益輝、上條喬久、日暮真三、小西啓介、加納典明らが、クリエーター集団「サイレンサー」を立ち上げる。結果的に、この集団が、日宣美の受け皿のようになった。長友さんの独得の勘が、そういう道を選んだのかもしれない。

1969年、イラストレーター黒田征太郞と長友さんは、「K2」を設立。ふたりは二十代前半の頃、大阪の早川良雄デザイン事務所で知りあう。奇妙にウマがあった、という。ここから、ふたりの大阪的ゲリラ商法で、縦横無尽の活躍がはじまる。「野坂昭如/戦争童話集」、伊集院静のエッセイの挿絵、写真雑誌「写楽」のアートディレクション、朝日新聞の紙面デザインの刷新、人気劇団のポスター製作などなど。

これらの仕事は、いつも長友さんの「エエネン、ソレ」という大阪弁ではじまった。長友さんに、そう言われると、断わろうと思っていても、つい仕事を引き受けてしまったというクリエーターたちは数知れない。

膨大な量の仕事をこなしはじめたK2には、多数の若手デザイナーが在籍した。そして長友さんの薫陶をうけて、優秀なグラフィック・デザイナーに成長していった。長友さんは、競馬も大好きだったが、人を育てる名伯楽でもあった。

いつのまにか、デザイン界で、長友さんは亀倉雄策の後継者だと言われはじめる。

ある女性は、長友さんの人間的魅力について、仏様のようだとも。女優、宮沢りえが、初対面で、長友さんの大ファンになってしまったという話がある。長友さんの死の報に、宮沢りえは泣き伏した、という。

筆者は、長友・黒田のコンビを、森鷗外の「寒山拾得」のようだとみていた。たしかに、寒山も拾得も、みかけによらず高僧のひとり、神様のひとりだったはず。長友さんは年齢をかさねるごとに、中国の隠れた高僧のような慈顔になっていった。パートナーの黒田征太郞は、いつも虎の背に乗って一気に何千里も疾走してやってきたかのような気迫を持って、打ち合せの場にあらわれた。絶妙のコンビだった。

長友さんの仕事は、グラフィック・デザインが中心にあったが、それよりも人間関係構築の大デザイナーだった。彼がみこんだ人とは、全人格全生活を共にするようなつきあい方で、真の友となった。誰もマネできない、体力と金の必要な荒業だった。長友さんには、二千人以上の友人がいた。
雑誌をつくる、という仕事にとり憑かれた長友さんは、十年前から「クリネタ」を創りはじめた。そして37冊の「クリネタ」を残した。

実は、長友さんを雑誌の世界に、引きずりこんだのは筆者だった。50年前に週刊誌「平凡パンチ」の表紙のADとして、小西啓介さんとふたりで、大橋歩さんのイラストレーションをデザインしてもらった。

その長友・小西コンビ制作の平凡パンチの表紙は、いま、代官山蔦屋書店に麗麗しく飾られている。雑誌大好き人間の社長が、一番好きな表紙、ということで……。

合掌とは記るさない。長友さんは、「そんなもんエエネン」と言うにきまっているから。
2017年5月5日 新聞掲載(第3188号)
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