女優・のんに聞く「変わらず、グレードアップしていこう」 『創作あーちすとNON』(太田出版)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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読書人紙面掲載 特集
2017年5月10日

女優・のんに聞く「変わらず、グレードアップしていこう」
『創作あーちすとNON』(太田出版)刊行を機に

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プリンスは「ジ・アーティスト」と呼ばれることで活動領域の拡張を果たしたのではないし、そもそもそのような意図はなかった。『この世界の片隅に』によって私たちの世紀の最も才能豊かな演技者であることを改めて知らしめた「ジ・アクトレス」は、改名とともにいかにも人を喰った「創作あーちすと」の肩書を掲げることで、自らの資質を俳優の枠を超えて自由にまた多様に展開するための気楽な手段を手に入れたように見える。新たな出発を応援したいという太田出版の熱意を受けてユニークなフォトブックをつくりあげたのん(本名:能年玲奈)さんに、お話を伺った。  (インタビュー・文 片岡大右)

空にも魚

――新しいお名前、アルファベットではすべて小文字のものにわれわれは親しんできているのですが、この本のタイトルではすべて大文字です。 
のん
 アートディレクターの方がこのようにしてくださったんですが、派手で、素敵だなあと。ニコって笑っている顔文字のように見えるのが小文字なんですけど、こっちはけっこう、突き抜けた感じがしますね。

――以前は女性だけでの本づくりという意欲的な試みをされていますし、今回も多くの女性が関わっています。女性と仕事をすることの特別な手応えとは、どのようなものでしょう。
のん
 やはり同性同士なので、気楽ですね。気兼ねなく発想できるというか。やりたいことを臆さずいえて、先に形を決めずに行けるという楽しさがあります。

――とりわけスタイリストの飯嶋久美子さんとの一連のお仕事が、われわれに鮮烈な印象を与えています。
のん
 以前お世話になったことがあったのでお声がけしてみたんですが、本当に楽しいですね。今回も色々と提案してくださって、例えばこの、描くときの衣装はピカソのボーダーをリスペクトしていたり……。そしてスタイリングでは、山口絵梨沙さんにもお世話になっています!

――「アクション・ペインティング」ですが、この絵を見ると、やはり魚がお好きなんだな、と。
のん
 魚、好きですね。描くのが簡単なので……。そういう理由(笑)。

――空にも魚というわけで、鳥は描かないのですね。
のん
 鳥は……難しい、描くのが(笑)。

――そういう理由で(笑)。あのにぎやかな「ホコとのん」の特設サイトには鳥が出てきますが。
のん
 あれは私ではなくて……。私が描いた絵とホコモモラさんで出しているデザインがごちゃまぜになっているページなんです。

――本当に鳥は描かないということが証明されました。
のん
 挑戦してみたいですが……。

――この絵に戻ると、これは現場で即興的に……。
のん
 そうですね、現場で描いていきました。魚がカミナリ雲から飛び出してきて、滝に向かっているという。魚も雲も滝も、全部、稲妻のように鋭い感じで描いてみたので、「全部、カミナリ」というタイトルです。そこから、こう、テープを伸ばして、ドレスが捕まっていたり、反抗していたり、靴にまでテープが伸びていたり……。全体に、稲妻に打たれているイメージです。

――ところでカミナリ雲は雷が準備される場所で、これなしでは雷もありません。のんさんにとって、仕事という出来事の渦中にいる時間とそれに先立つ時間、つまりこれから何かが起こる、何かを起こしてやるぞという時間ですね、この二つの時間はどのようなものとして存在しているのでしょうか。
のん
 どちらも大事だと思うんですが、こう、どういうものにするか練っている段階のほうが、ちょっとがんばらないと、ということで、精神力が要りますね。現場に行ってしまえば、難しいとかつらいとかはありながらも、つくっていく渦中は楽しいんですけど。
仕事と生活

創作あーちすとNON(のん)太田出版
創作あーちすとNON
のん
太田出版
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――さて、対談部分を拝読すると、仕事の時間とそれ以外の時間との関係の捉え方が、一見すると以前とは変わっているようにも思えます。桃井かおりさんや鈴木心さんの言葉を通して、仕事ののんさんと普段ののんさんが同じひとつの存在だということが強調されている。以前ののんさんは、カメラの中の自分が好きな自分で、普段の自分は何ものでもないという趣旨のことを、様々な機会に語られていたんですが……。
のん
 あっ、それはもう、今も全然変わらなくて……。女優じゃなかったらそのへんで野垂れ死んでるだろうなあって妹にいわれるくらいに使えない、日常生活で使い物にならない部分が、女優のお仕事だと活かされるっていう喜びがある。映像の中に映っている自分が好きっていうのは、そういうことなんですね。 

――なるほど。そしてたぶん、桃井さんや鈴木さんの言葉も、視点が違うだけで別のことをいっているわけではないと……。
のん
 と、思います。はい。

――というのも、普段の「使えない」部分を一見自嘲的な言葉で表現していた頃も、のんさんはそういう自分を否定的に見ていたのではまったくないんですよね。
のん
 そうですね。けっこう、自分のことを甘やかしている(笑)。変えなきゃっていう気持ちになったことはないですね。この女優のお仕事をできているからこのままでもいいんだ、みたいな、ちょっと、傲慢さをもって(笑)、やっています。

――とにかく、何ら変わってはいない、と。
のん
 そうですね。変わらず、グレードアップしていこうという感じです。  

――変わっていないといえば、「大人」と「子ども」については以前からまったくブレていませんね。「成長」を拒むのではなくて、そのあり方の問題……。 
のん
 そう、ちゃんと大人になっていきたいというビジョンや憧れはあるんですが、その中でも子ども心を失わないというか。自分のやりたいこと、表現したいことに対して、大人として考えたら、とストップをかけてしまうものを身に着けたくないと思っています。
痛みとコメディ


――話を変えますが、この本の中で、褒められるのは簡単な言葉のほうがいいとおっしゃっていますね。ところで、『この世界の片隅に』の演技の感想をツイッターで見ていると、「ビビった」というのが多いんです。こういう簡単な言葉はいかがでしょうか。
のん
 それは、終戦の日の感じですかね。

――そこも含め、感情をあらわにするシーンの印象でしょうね。「怪演」とか、「狂気をはらんだ」といった感想さえ出てくる。もちろん、褒め言葉なんですよ。
のん
 意外な感想ですが……。でも私自身、終戦の日にすずさんがあそこまで怒る、怒りを放出するというのが意外で、原作を読んでびっくりした箇所ではあるんです。その後に考えたのですが、すずさんはここまでの怒りを心の奥にもっていて、でもそれを隠していたというよりは、日常を生きるための色々な工夫に夢中で自分でも気づいていなかった部分があって、それから、絵を描くことで解消されていた部分もあった、それが、絵を描けなくなったことで、内にこもっていたものが外に、言葉や表情を通して感情として出てくるようになる、そういうことなんじゃないか、と。だから「狂気」というよりも、そうやって腑に落ちて、その解釈のもとに演じさせていただいたので、意外な感想ではあるんですが、でも私自身も最初は意外に思ったシーンなので、そこに衝撃を感じていただけたというのは、ありがたいです。 

――こういう感想は、まさにのんさんの演技の「衝撃」を前にしての、雑ではあっても率直な反応だと思うんです。それを受け止めていただいた上で、背後にどういう知的作業があったのかを丁寧に説明してくださったことに感動しています。では次の話題です。この本にも出てきますが、男性役を演じたいということを、のんさんはもうどこでもいっている感じで……。
のん
 たしかに(笑)。いいふらしていますね。喰えない奴が大好きなんですが、女性役で、喰えないけどすごく子どもっぽい、みたいなものがあまりなくて、そういう役を女性に落とし込むことはできないものだろうかと思っているんです。

――脚本執筆というのも、演じたい役がないなら自分で書いてやると……。
のん
 あっ、そうですね、ないなら、みたいな。趣味ですけどね。今書いているのは喰えないキャラじゃなくて、わんぱく女子爆発っていう感じのものですが。 

――最後の話題です。矢野顕子さんとの対談で「明るい曲調でも矢野さんの声には痛みを感じる」とおっしゃって、でも御本人はあまりピンと来ていない様子で……。
のん
 ピンと来てなかったんですよ、全然……!  

――でもあれは正しいと思うんですね、矢野さんの声の魅力はまさにああいうところにあるんじゃないかと。
のん
 そうですよね。  

――ともあれ、こうして明るさの中の痛みに注目する一方で、のんさんはコメディへの情熱を度々語っています。こういう二つの関心は、方向性は反対でも、結局は通じるものがあるのかなと思うんですが。
のん
 ああ……なるほど、そうですね。まず、痛みというのは、それを感じたときに胸キュンするっていうのが、すごく気持ちいい感覚で、そこが好きなんです。なので、悲しみを背負っているとか、つらいのかな、みたいなことではなくて、切なさがあるっていうか、そういう感じなんですよね。難しい……。キュン、です。キュン、を重要視しています。それで、コメディですが、この人はこういうトラウマがあるから逆に突っ走りすぎてドジをしちゃうとか、そういうところに面白さが出てきたりしますよね。そうやってその人を感じさせる、リアルなところを形にしていくのがコメディなんだと思っています。 (おわり)
2017年5月5日 新聞掲載(第3188号)
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