民主主義の発明 全体主義の限界 / クロード・ルフォール(勁草書房)三十年の遅配が意味するもの  「全体主義は民主主義から生まれる」|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年5月8日

三十年の遅配が意味するもの 
「全体主義は民主主義から生まれる」

民主主義の発明 全体主義の限界
著 者:クロード・ルフォール
出版社:勁草書房
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「確実性の指標の喪失」や「権力の空虚な場」、これらはほとんどクロード・ルフォールの代名詞ともなる、あまりによく知られたフレーズである。本邦でも、シャンタル・ムフのような政治理論家がこれを取り上げたことで、ルフォールの名は一部のフランス思想業界を超えて、広く知られるようになった。しかし、彼の思想がどのような問題意識から生じ、総体として何を言わんとしたものなのか、これに即座に答えられる人はそう多くないように思われる。

思想家ルフォールは、どのような時代経験のなかで、ものを考え、書いたのか。本書の魅力のひとつは、そのような問いの見通しをずいぶんよくしてくれたことであろう。フランスの左派連合、ハンガリーの蜂起、そしてポーランド報告など、本書はルフォールがいかなる現実にむけて言説的介入をはかっていたのかの記録であると同時に、貴重な時代の証言となっている。

さて、本書の主題はもちろん民主主義である。ルフォールにとって民主主義とは、権力の脱身体化に伴って、社会が根本的な未規定性にさらされているものとして理解される。その結果、権力は空虚な場として現れ、権力者とはそこを一時的に占めうる死すべき人間にすぎないものとなるだろう(この洞察を権力の場をめぐるヘゲモニー闘争として引き取ったのが、根源的民主主義の思想である)。他方、本書のもう一つの主題である全体主義とは、民主主義におけるこの余白の報復、不確実性の眩暈にほかならず、それは〈一なる人民〉という表象のもと、社会的異質性を排除し、社会内の分割そのものを否認する「エゴクラット」(ソルジェニーツィン)として現れるだろう。民主主義が以上の両義性を抱え込んでいるとすると、権力の空虚さを隠蔽する全体主義的な誘惑に対し、民主主義的な空白はつねに擁護され、繰り返し創出=発明される必要がある。

ところで、「人権」の政治的意義を擁護し、歴史の特権的なエージェントや、単数形・定冠詞のつきの革命を否定するルフォールの構えは、すぐれて「ポスト・マルクス主義」的なものだ。これについて興味深い回想がある。それによれば、彼がマルクス主義から離脱したのには、第一に、師メルロ=ポンティの哲学が、その体系に収まりきらないマルクスの未規定な過剰さに注意を向けるよう彼を促したこと、そして第二に、かつて参画したトロツキスト政党に、官僚制と全体主義的なものを嗅ぎ取った彼自身の当惑があったためらしい。こうして、マルクス主義との別離の途上で、政治学の伝統において忘却されていた「政治的なもの」に彼は出会うのだろう。そしてこの概念こそ、ルフォールに独自の思想を準備し、それをいまなお読むべきものとしているのだ。

本書のテーゼのひとつ「全体主義は民主主義から生まれる」は、いずれ、かつてほど衝撃的なものではなく、少なからずの人々にとってなかば“常識”ですらある(つい先日のトランプ勝利にさいし、オーウェル『1984』とアレント『全体主義の起源』がベストセラーになったことを想起しよう)。その意味で、本書は訳者のひとりが「解説」で述べるように確かに「古い」ものだ。とはいえ、問題は、私たちがとうの昔に調伏したと信じた亡霊になおも取り憑かれていること、そのためこのホコリをかぶった洞察が、依然としてリアリティをもってしまっていることだろう。昨今の社会的同質化の脅迫と異質者への排他的振舞いをみるに、あるいはなかんずく民主主義が一度も発明された試しのない本邦においてはなおさら、本書の三十年の遅配はむしろ、その思想を時宜にかなったものにしたのかもしれない。しかしそのことはやはり悔恨すべき不幸なことなのだ。(渡名喜庸哲・太田悠介・平田周・赤羽悠訳)
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2017年5月5日 新聞掲載(第3188号)
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この記事の中でご紹介した本
民主主義の発明  全体主義の限界/勁草書房
民主主義の発明 全体主義の限界
著 者:クロード・ルフォール
出版社:勁草書房
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