蜜蜂と遠雷 / 恩田 陸(幻冬舎)恩田 陸著『蜜蜂と遠雷』 武庫川女子大学 今井 桃代|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年5月8日

恩田 陸著『蜜蜂と遠雷』
武庫川女子大学 今井 桃代

蜜蜂と遠雷
出版社:幻冬舎
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蜜蜂と遠雷(恩田 陸)幻冬舎
蜜蜂と遠雷
恩田 陸
幻冬舎
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閉じた本には29枚の付箋が挟まれている。長めのブルー。気持ちを揺さぶられた言葉、涙を滲ませた音楽、そして心に刻み付けたいと願う情景。本から突き出した付箋が鍵盤のように物語を奏でる。

舞台は世界中の優れた若いピアニストの登竜門である、芳ケ江国際ピアノコンクール。第一次、二次、三次予選、本選がある。無名の16歳、風間塵。母の死後、表舞台から姿を消した栄伝亜夜、20歳。ジュリアード音楽院の天才といわれるマサルは19歳。楽器店に勤める高島明石は28歳。その4人のコンテスタントの才能、夢、運命、音楽、自然、葛藤、挫折がピアノの音とともに描かれる青春小説である。この本は、絶対に読みたいと思った。

私もこの春に二十歳。小さい時からバレエやピアノに親しみ、高校も音楽科。今は音楽学部で声楽を専攻している。当然のように彼らの人生と重ねてしまう。

実は、そこまでに読んでいたのは先生から借りた本だった。読む喜びが、私の中でぐるぐると動き回り始める。堪らなくなって、電車を降り、書店に走った。定価1800円。アルバイトの時給にすれば2時間分と考えてしまったことが恥ずかしくなった。私だけの本。もう気にすることはない。付箋が貼れる。その数が増えてくる。登場した曲を音楽サイトで聞きながら繰り返し読んだ。楽しくて仕方がない。

付箋は二次予選と三次予選に21枚と集中している。その一枚。マサルの演奏は、フランツ・リストの大曲「ピアノ・ソナタ ロ短調」だ。この曲を耳にして読み始める。主役は音楽なのだろうか。本なのだろうか。どちらからの情報も同じ力でぶつかり合う。圧倒されるようなピアノの響き。甘く切ないフレーズ。もっとこのページに留まっていたい。曲が終わってしまうのが寂しい。このような体験をしたのは初めてだった。

「どうすれば、この音楽を広いところに連れ出せるでしょうか」。塵は亡き恩師と交わした約束に悩むが、ようやく決意が生まれる。初めは棄権すら考えていた亜夜の賭け。天才といわれる彼らはライバルであるはずなのに、お互いを必要とし、影響し合い、成長していく。誰が一位になるのか。

亜夜によるショパンが始まった。

「ショパンのバラードには、幼い頃の感情、わらべうたを歌う時に感じる、遺伝子に刷り込まれたさみしさが含まれているような気がする」

自然と身体が動き出した。踊るために作られた音楽ではないはずなのに。月明かりの下、私は舞い始める。そして一人の若者と出会う。惹かれる二人のユニゾン。幸せに満ち溢れふわりと宙を漂うリフト。しかし時が過ぎると触れ合う指が離れていく…。亜夜の弾く曲を聞いて涙が溢れてくる。「踊りたい。音楽が愛おしい」。そんな感覚が襲った。

『蜜蜂と遠雷』は言葉と音楽だけの物語なのだろうか。そうではない。私はステップを踏んだ。間違いなくもう一つの世界に導かれたのだ。

私が貼った小さな紙片。その1枚1枚、人はどのように感じ何を思うのか。確かめてみたい。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年5月5日 新聞掲載(第3188号)
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この記事の中でご紹介した本
蜜蜂と遠雷/幻冬舎
蜜蜂と遠雷
著 者:恩田 陸
出版社:幻冬舎
以下のオンライン書店でご購入できます
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