「病いの経験」を聞き取る[新版]――ハンセン病者のライフヒストリー / 蘭 由岐子(生活書院)病者それぞれの「生」の意味づけを、具体的に叙述…音として声として|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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2017年5月8日

病者それぞれの「生」の意味づけを、具体的に叙述…音として声として

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一九九〇年代はじめ、わたしはハンセン病療養所という未知のフィールドに降り立った。それからまもなく日本のハンセン病世界は激動期を迎え、一九九六年に隔離政策の根拠法「らい予防法」が廃止され、二〇〇一年にはハンセン病国家賠償請求訴訟の原告勝訴判決が出された。本書の初版は、そのような状況下で聞き取ったライフヒストリー研究の成果であった(二〇〇四年刊行)。それから一三年が経ち、ハンセン病政策の歴史的研究が進みあらたな知見も出てきた。本書は、初版を踏襲しつつ、それらを反映させるべく必要最小限の加筆修正を施した新版である。

再刊のねらいは二つある。ひとつは、激動期であったからこそ聞き取ることのできた病者たちの語りを読者に知ってほしいと思うからだ。一九九八年の提訴以降、ハンセン病は人権啓発の文脈で語られることが増えた。だが、病気の世界に軸足をおき、医療人類学の「病いの経験」概念を念頭に病者の「病いの語り」を聞き取り、病者それぞれの「生」の意味づけを具体的に叙述することを目指した本書には、そのような語りとは異なる多様な語りをおさめることができた。また訴訟に対する病者たちの複雑な思いや態度についても詳述することができた。

いまや多くの病者が鬼籍に入るようになり、じかにその声を聞く機会も減っている。巻末の伊藤比呂美氏の文章にあるように、本書に取り上げた病者のことばを、音として声として聞いていただけるのであれば本望である。

もうひとつは、質的研究の方法を学ぶひとたちに、ライフヒストリー研究の具体的事例として、とりわけ一般化された方法論としてではなく、個別の研究対象が求めてくる方法の実践例として読んでもらいたいからだ。本研究の方法論的特徴については、桜井厚氏の解説に詳しい。病者を前にしたわたしは自分をリフレクシヴに捉え返さないではいられなかったが、その過程を桜井氏は聞き取りにおける病者と「わたし」との対話と読み解いてくれた。

もともと本書は研究書に似合わず平易な文体である。それゆえ、文庫版になったことで内容と体裁がよりフィットした。また、カバーの絵は、期せずして、困難や障害を乗り越えたあとには広くあたたかい青空がひろがる、だから絶望してはいけないという「雲外蒼天」を想起させるものとなった。これこそが病者たちの人生を象徴するものなのである。
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2017年5月5日 新聞掲載(第3188号)
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