清新で力強い文章 佐藤佳奈「私が描く明日の農業」 踏み込んだ議論「特集 脳とこころ」中村久雄、片桐衣理、堀内勉座談会|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文芸同人誌評
2017年5月9日

清新で力強い文章 佐藤佳奈「私が描く明日の農業」
踏み込んだ議論「特集 脳とこころ」中村久雄、片桐衣理、堀内勉座談会

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カワセミが六羽飛び交う 野川ある日の朝  軽舟

渡部昇一氏(上智大名誉教授)がなくなった。かって一九七九年に刊行されてベストセラーになった『知的生活の方法』は週刊誌に
内容が予告された時から注目、本が出ると早速、購入して繰り返し精読したことを思い出す。

読書を中心とした独自の生活スタイルを説いた本で、当時、大学の先生がどんな勉強の仕方をしているのか、大変に興味深かった。

一つは勉強を続けていくには、環境が大事だとあった。たまたま臨時収入が入ったのを頭金にしてクーラーを購入し、六畳間につけ
たところ、実に快適で勉強、執筆に一段と熱が入ったのをよく記憶している。それまで、私はクーラーは体が冷えるので健康によくないと思い、自然のなかで過ごしていた。しかし、それは勝手な思い込みだった。

またいつもすぐ手のとどく所に何十冊かの本がないと思うような仕事はできないとも。

近年では『中村天風に学ぶ成功哲学』(致知出版社)がユニークで面白かった。紹介されている幸田露伴の『努力論』(岩波文庫)は三読、昔の作家は漱石はじめ深い学問があると感心した。

先月に引き続き『ボブ・ディラン語録』を少しずつ読んでいる。読み進むうちにボブ・ディランが大変な勉強家だと分かってくる。

若いころ、ニューヨークの公立図書館に通って知識を積み上げたそうだ。

「俺は学ぶべきすべてを、/当時そこに生きて/実在していた人たちからじかに学んだ。/初期のすべての曲に関して、/俺の感情はそこから出発していたと思う。」「人間の本質とはなにか? だ。/自分とはなにか、自分はなにを好み、/なにを好まないのか、/自分とはいったい何者か? ではない。/そういうことじゃなくて、/目に見えない/このさまざまな精神は/いったいなんなのか。」

これらは私たちが近現代文学で追求している問題とそのまま共通している。

私たちも勉強していないと、歳をとってから書くことがなくなるようだ。

今月は佐藤佳奈「私が描く明日の農業」(福島県立会津農林高等学校 農業園芸科3年)が簡潔で素晴らしい文章。第8回全国農業関係高等学校エッセイコンテストの最優秀作品。

家は代々続く専業農家で、水稲を柱に肉用牛三十頭他の複合経営を家族で営んでいる。高校では畜産を専攻しているという。

「先日、我が家の繁殖牛の「さくらこ」が七度目の分娩を迎えたので、私も立ち会いました」

清新で力強い文章を深く味わった。

「ほほづゑ」九十二号、「特集 脳とこころ」。中村久雄、片桐衣理、堀内勉の座談会では「「脳」に様々な「意識」が生じ、それが統合されて「こころ」になる」「ヒトの「脳」とAI(「人工知能」)」など、かなり踏み込んだ内容の議論がある。

「VAV ばぶ――27」。「北川透氏インタビュー(後半) 時代の懸崖と思想の自立」。聞き手は岡田啓、佐久間和宏、陶山幾朗、成田昭男。熱が入っている。

このなかで吉本隆明の個人雑誌「試行」が「最盛期には八〇〇〇部くらい売れていた」らしいことを知った。内容は「丸山静の批評活動」、「吉本隆明との関係」、「村上一郎と紀伊國屋新書『中原中也の世界』」、「『あんかるわ』同人について」等。資料的な意味もあろう。

「北斗」四月号。竹中忍「訃報清水信の絶筆」。先輩清水信の訃報に接し、悲しんでいる。

「編集後記」を執筆した棚橋鏡代によると昨年五月に転倒で怪我、それまでは医者にかかられることもなく強靱な生命力に溢れておられたそうだ。

長年にわたっていくつかの同人雑誌にエッセイを発表されるのを丹念に読ませてもらってきた。同人雑誌を受け取るとまず氏の書いたものを読んだ。参考になることが多々あった。長いものより「断片主義」を標榜されてきた。同人雑誌は薄いほうがいいとも。

氏は「北斗」創刊者の一人で、死ぬまで書きたいといわれ、手元にある同誌六三六号には「尾形明子論(2)」を執筆している。

単行本では手書き原稿の句集『遅日』、著者・高橋佳雪(秀道)、(発行者三光山清光院善済寺高橋秀城)が秀逸。晩年の父はこれまでの句をいつか一冊にまとめたいと願い、一句一句を半紙に清書して残した。親子の心がこもった素晴らしい句集である。

この他、広瀬有紀「奇想の映画監督・寺山修司」(「北奥気圈」十二号)、松浦克子「我が亭主」(「水晶群」七十二号)、菊田均「歴史徒然」(「時空」四十四号)、速水剄一「啄木の古里」(「四国作家」四十九号)、田口兵「やっとここまで」(「架け橋」二十三号)、野中康行「スズメが群れるわけ」(「文芸誌 天気図」十五号)、菊地夏樹「相棒」(「あらら」八号)にひかれた。
2017年5月5日 新聞掲載(第3188号)
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