悪党召し捕りの中世 鎌倉幕府の治安維持 / 西田 友広(吉川弘文館)武士たちの生態を堪能  皮肉にもタイムリーな内容に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年5月15日

武士たちの生態を堪能 
皮肉にもタイムリーな内容に

悪党召し捕りの中世 鎌倉幕府の治安維持
著 者:西田 友広
出版社:吉川弘文館
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普段、中世という時代をみているせいか現代の世事に疎いという自覚はあるが、そんな評者ですら治安関連のニュースを耳にして不安になる昨今である。犯罪・テロはもちろん、人々の不安にかこつけて取り締まりの対象を拡大しようとする動きも気にかかる。かといって現代では自力で治安維持を行うわけにもいかない。中世じゃあるまいし。

しかし、その中世の歴史をきちんとみておくことも大切だと本書は気づかせてくれる。例えば冒頭の「獄前の死人、訴え無くば、検断無し」という言葉。「検断」とは犯罪者を逮捕し処罰する行為のことで、現代風にいえば、もし警察署の前に死体が転がっていても、「訴えが無ければ、犯人の逮捕や処罰は行ってもらえない」となる。現代とは異なる自力救済の中世像が目を引くが、そんな「昔と今はこんなに違う」という話では終わらない。本質は「訴えが無ければ、犯人の逮捕や処罰は行われてはならない」と読むことにあるのだと著者は主張する。

なぜ「行われてはならない」のか。それは中世の治安維持が権利・利権だったからだという。犯人の財産没収を含む各種の収益を得られる検断の職務は、「本所」と呼ばれる荘園領主によって任命された。治安維持は本所の支配のためであり、その支配は当然排他的であることが望ましい。本所の支配が独立した「小宇宙」を形作っている中世にあっては、訴えが無ければ検断は「行われてはならない」のである。

「小宇宙」ごとの分断状態にあって、一律の治安維持機能がなかった時代から現代までの間で、分水嶺となったのが鎌倉時代である。こうした歴史的条件のもと登場した源頼朝だが、反政府勢力でしかなかった彼が戦争を勝ち抜くなかで、味方の所領支配を保障し没収した敵の所領を給与する仕組みを自前で構築していく。当初、この仕組みは本所の「小宇宙」には及ばなかったが、やがて公的に位置づけられていった。守護や地頭によって実践された幕府の検断がその後どう展開したのか、本書は丹念に跡づけており、武士の時代とはいえ鎌倉幕府権力がすんなり確立したわけではなかったことがよくわかる。それは治安維持の面でも同様だったという点が本書の眼目の一つであろう。

ただし、幕府は本所に配慮しながらも周到に自らの検断機能を高めていく。鎌倉後期になると本所側でも多くの問題が発生し、一枚岩で検断にあたることができずに幕府への依存を強めるようになった。こうしたなかで幕府の検断が本所にも及んでいったのである。その過程で重要なのが、取り締まり対象を「悪党」と名指しすることにより、取り締まる側の正当性を確保することであった。誰かが誰かを悪と決めつけるという、既視感のあるこの構図。著者は幕府をアメリカに、悪党をテロリストに置き換えてみよという。

とはいえ中世と現代を性急に結びつけることのみが目的ではなく、検断事例の紹介や分析に多くを費やす本書は、遠い中世の具体的復元に成功しており、武士たちの生態をじっくりと堪能できる。だが、皮肉にもタイムリーになってしまったことで、中世から現代へ、国内のみならず対テロという名の世界的な治安問題にまで、読者の関心は自ずと広がっていくだろう。「警察」として世界各地の「検断」に関わろうとする動向や、積極的に治安を維持しようとする政治方針などに、鎌倉武士がオーバーラップするとは思わなかったが、同じ線上にあるということが理解できた。

歴史学の外側では前近代的という意味で使われることの多い「中世」という言葉。その中世に生きた武士たちですら、治安維持という権利を力に任せて一気に奪ったわけではなかった。もちろん現代でも悪党は捕まえてほしいが、こうした歴史を踏まえるならば、治安維持はより正当な根拠に則ったものであってほしいと思う。中世ではなく、現代なんだから。
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2017年5月12日 新聞掲載(第3189号)
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この記事の中でご紹介した本
悪党召し捕りの中世 鎌倉幕府の治安維持/吉川弘文館
悪党召し捕りの中世 鎌倉幕府の治安維持
著 者:西田 友広
出版社:吉川弘文館
以下のオンライン書店でご購入できます
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