又吉直樹氏第二弾小説『劇場』刊行直前記者会見から|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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読書人紙面掲載 特集
2017年5月12日

又吉直樹氏第二弾小説『劇場』刊行直前記者会見から

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デビュー作にしていきなりの大ベストセラーとなり、芥川賞まで受賞した『火花』に続く、又吉直樹氏の二作目の小説『劇場』が5月11日に刊行された。この作品は演劇の街下北沢を舞台に、売れない演劇人の永田と恋人の沙希との出会いから破局までを描いた恋愛小説である。この作品の刊行に伴い行われた会見で、演劇を小説の主軸に据えたことについて又吉氏は「演劇も好きな表現ジャンルのひとつですし、その他の設定も考えてみましたが、この作品に関しては演劇が一番すっと入っていけました」という。

主人公の永田は演劇に対する思い入れは人一倍強いがまったく売れない脚本家であり演出家である。周りから見ればあまりにも強い自意識と自分以外の才能を素直に認めようとしない、付き合うにはなかなかの辛抱強さを強いられるような人物だ。一方恋人となる沙希は、もともと明るい性格だったのだが、永田の才能を信じ続けながらも永田の行動に振り回され、永田の言葉に傷つき、そして疲弊していく。この二人について又吉氏は、「二人とも現代的な感覚ではないかなとは思うんです。そこが二人が生きづらさを感じているところかもしれません。三、四十年前であれば二人のような生き方もあったと思うんですが、今ではそんなのはおかしいだろうという感覚がある。でも現実にはああいう性格や生き方をしている人は今もたくさんいるんじゃないでしょうか。永田は徹底的に他者を認めないのではなくて、自分の周りの人たちの能力や魅力に気づいているからこそ認めたくないという部分が強い。僕自身は妬み嫉みの感情は見ないようにするというか、初めから負けると決めていたほうが楽やなみたいなところがあるので、永田に感情移入するのは大変でしたけど、タイプ的には嫌いじゃないんですね。負けてるというのは格好悪いし、勝っていると嘘をつき続けるのも格好悪い。その間であがいているという一番しんどいやり方を選んでいるので、問題点はいろいろあっても個人的には応援したくはなるんです」と登場人物への思いを語る。

また、永田が「才能」について悩み苦しむことについては「芸人になろうと思って18歳で上京して養成所に入ったんですが、そこには四、五百人ぐらいの人たちが自分に才能があると思って集まっているわけです。でも僕の中には二面性みたいなものがあって、行けるというのと絶対無理やというのが最初からあったんですが、そうした感覚は結構みんな持っていたんじゃないでしょうか。こうしたいと思うことと、実際には出来ないという現実の落差が苦しみにつながっていったと思うのですが、そんな感覚は年々薄れていくと思うんです。たぶん50歳になったら僕はそういう苦しみを書けないんじゃないか、今ならばぎりぎり振り返ることが出来るんじゃないかと思いました」と、今だからこそこうした作品を描くことが出来たのではないかと自身で分析をした。
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 小説デビュー作で高い評価を得て、さらには芥川賞受賞ということで今回の作品を仕上げることには相応のプレッシャーがあっただろうことは想像に難くないが、実は『劇場』の冒頭部分は『火花』よりも先に書かれていたのだという。それについて又吉氏は「『火花』を書く前に書いていた60枚ほどの原稿は僕自身はすごく気に入ってたんですけど、『火花』を書いたあとはいろんな人の意見や視点が僕の中に入っていましたから、これはめっちゃいろんなことを言われるなと思って三回ぐらい書き直しました。でも一年ぐらい経って自分もだんだん落ち着いてきた時に、ごく一部の人が頑張れと言ってくれて今日まで生きてきただけのお前が、そもそもなんでみんなの要望に応えようとしてんねんとすごく当たり前の勘違いに気づいて(笑)、これは自分の好きなことをやるという前提を忘れていたなと最初に書いたものを見直したら、やっぱりこの続きを書きたいと思ってなんとなく吹っ切れたというか、自分は出来ることしか出来ないという基本的な部分に戻れたかと思います」と話した。

『劇場』は「新潮」に掲載された時から話題を読んでいたが、書籍として刊行されたことでより多くの読者のもとに届けられることとなった。さて、又吉直樹流恋愛小説を読者はどう読むのだろうか。
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2017年5月12日 新聞掲載(第3189号)
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