革をつくる人びと 被差別部落、客家、ムスリム、ユダヤ人たちと「革の道」 / 西村 祐子(解放出版社)変わることは急務  「当事者の視点」を持つ人類学者の記述|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年5月15日

変わることは急務 
「当事者の視点」を持つ人類学者の記述

革をつくる人びと 被差別部落、客家、ムスリム、ユダヤ人たちと「革の道」
著 者:西村 祐子
出版社:解放出版社
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本書の魅力は、革づくりの現場を日本だけでなくインド、マレーシア、イベリア半島、北米まで含めて紹介したことにある。客家やユダヤの人々の過酷な状況を生き抜く戦略としての革づくりに焦点をあてて、知られざるエピソードを頻出させ、ぐいぐいと読ませてくれる。かつて評者は、専門家と組んで靴づくりとその職人に関する本を著したことがある。三〇〇冊ほど国内外の関連書籍に目を通し、四年間をかけて靴業界の昨今についてまとめたが、その評者にとっても本書は新しい発見にあふれている。また、その文体には、一般の読者、特に革に関わる人びとに読んでもらおうとの意思が感じられる。発展途上国のNPOと街づくりや女性たちのマイクロローンなどに取り組んできた著者の体験から培われたものであろう。

革とそれを生み出す人びと、そして革を用いる物づくりの魅力を伝える本や雑誌は、数多く出版されている。潜在的な購買者に「憧れ」や「情報」を提供することは、悪いことではない。だが、こうした記事は、個人ないし会社単位の営みや歴史に着目するか、スペック、製法紹介に終始することがほとんどだ。ギルドに触れても、それがなぜ生まれてきたのか、所属する人々にとっての意味を説得的に説明してこなかった。そのことに、本書を読んで改めて気づかされた。これは、「当事者の視点」を持とうと努める人類学者の記述であるからこそ、達成した面がある。

靴づくりは見事に分業化されており、八〇工程以上を経て一足の靴ができあがる。革づくりの現場は、製品を手にする消費者からすれば靴以上に遠い。人類史のはじめから存在したといわれる革づくりには、鞣しに必要な化学的知識とノウハウがさまざまな形で蓄積されている。外部の世界から閉ざされがちなのは、複雑な工程を取る革づくりならではの事情でもある。しかしながら、それは今後の展開への手がかりを外の世界から得ることが難しいことも意味する。

著者は、革づくりを営んで来た民族、その中でも海外のさまざまな現場を渡り歩いて専門的技術者となった人々の知恵を、日本の革づくりにも生かすことを提言している。原皮のトレーサビリティと、なめしや皮革の製造工程で制限ないし禁止されているリストにある薬品を用いない革づくりは、すでに欧米の主流となっている。日本のなめし業者は、すでに半数以上が倒産しており、国際的には収集合併が相次いでいる。「正しい原皮」は世界の各メーカーが取り合い状態である。変わることは急務なのだ。

口に入るものには、トレーサビリティに物語性、減農薬など環境へのやさしさが求められている。この傾向は食にとどまらず、衣類のほか身の周りのものが対象となりつつある。安さやブランドのタグではなく、労働や生産の環境を含めた倫理的な正しさでも裏づけられる品質へ。その変化が改めて確認できる本書を、こだわりのモノづくりとそれを活かしたビジネスに関心のある人に勧めたい。

この記事の中でご紹介した本
革をつくる人びと  被差別部落、客家、ムスリム、ユダヤ人たちと「革の道」/解放出版社
革をつくる人びと 被差別部落、客家、ムスリム、ユダヤ人たちと「革の道」
著 者:西村 祐子
出版社:解放出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年5月12日 新聞掲載(第3189号)
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