がん消滅の罠 完全寛解(かんかい)の謎 / 岩木 一麻 (宝島社)岩木 一麻著 『がん消滅の罠 完全寛解の謎』  城西大学 植田 瑞美|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年5月15日

岩木 一麻著 『がん消滅の罠 完全寛解の謎』 
城西大学 植田 瑞美

がん消滅の罠 完全寛解(かんかい)の謎
出版社:宝島社
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最先端医療機関として名高いがんセンターで、呼吸器内科医員として働く夏目のもとには、多くの末期肺がん患者が集まる。ある日、彼が余命宣告をした患者が次々と完全寛解するに至ったことが判明する。しかも、その患者全員が、告知を受ける僅か8か月前に生命保険に加入し、完全寛解後に保険会社に保険金を請求していた。疑惑の念を抱いた保険会社は、直ちに徹底調査に踏み込んだが不正はみつからず、全員が契約通りに多額な保険金を手にした。

担当医であった夏目自身もこの奇跡の多発に困惑していた。新薬が試される治験患者ということを考慮しても、寛解がみられる確率は、16万分の1という非常に低い値であるからだ。そこで、同僚の羽鳥と手を組み、事の真相を探ることにした。調べを進めるうちに患者の共通点として奇妙なことが浮上した。まず、患者が夏目の診察を受ける前に同じ医療機関での受診履歴があったこと。そして、その医療機関の理事長には10年前に突如姿を消した夏目の恩師の西條が就任していたことである。

「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったこと」、という意味深長な言葉を残して姿を消した西條。西條を崇拝していた夏目は、懸命に恩師の姿を追う。そして、その西條が夏目の周りで起きた通常では理解しがたい事象に関与していることを知った夏目は、西條との接触を試みる。しかし、西條は夏目との距離を置くばかりか、反社会勢力を使って警告を出すほどの姿勢をとる。西條の変化に戸惑いながらも「がん消滅」の解明に向けての追及を夏目は辞さない。しかし、それは、西條の娘の死に始まる切なくも悲しく、そして予想外に展開する物語の始まりだった。

本書には、いくつもの嘘が練り込まれている。
・恋人を守る為に、若くして逝った女性が生前についた嘘
・妻を愛するが故に誠意を持って事実を打ち明けた夫を許すことなく、復讐を誓った妻がついた嘘
・人格者として崇められていた医師が、目的遂行の為に愛弟子につく嘘

全てが点のように見える嘘の数々が、一本の線になって登場人物一人ひとりにきつく絡みつく。その複雑に絡み合った嘘に巻き込まれないようにと、慎重に読み進めていたつもりだったが、不覚にも最後の最後で意表を突かれた。最後まで読み手を驚かせる著者の作風は、圧巻である。叶うものならば、巧みに練り込まれた嘘の回路を作り出した著者の脳内をのぞいてみたいくらいである。
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2017年5月12日 新聞掲載(第3189号)
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