生き延びる都市 新宿歌舞伎町の社会学 書評|武岡 暢(新曜社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年5月22日

巨大歓楽街を多角的に調査
緻密で丁寧な研究

生き延びる都市 新宿歌舞伎町の社会学
著 者:武岡 暢
出版社:新曜社
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本書は、新宿歌舞伎町の維持、再生産のメカニズムについて論じたものである。だが、そのメカニズムは、わかりやすく図式化したり、物語のように記述したりできるものではない。

著者は、二〇〇一年に起きた歌舞伎町の大規模な雑居ビル火災を取り上げ、それが「歌舞伎町の把握困難性、記述困難性を暴露した」と語る。研究対象地域の把握や記述が困難であることは、研究者にとって、調査・分析が難しいことに他ならない。しかし、彼は、それを歌舞伎町の再生産を語る上で重要な手がかりとして論じる。

その困難性の背景にあるものとしてまず挙げられるのは、歌舞伎町商店街振興組合が、もともと持っていた性質や経済状況の変化などにより規模が縮小していったことだ。そして、「風適法」の施行によって、逆説的に新宿区が歌舞伎町への関与を縮小することになってしまったことが指摘される。また、何より歌舞伎町では、狭小な雑居ビルが立ち並び、細分化された空間に多様な店舗が入居する「整序されずに流動する細分性の集積」が起こっていることが大きい。特に風俗産業の場合には法令の枠組みにより、外面から営業の内実を把握できず、さらに頻繁な店舗の入れ替わりにより、一層把握の困難性を増している。

その把握困難な風俗産業の労働と経営について、著者は、インタビューやフィールドワークを通じて描く。キャバクラ、ホストクラブ、ヘルス、ソープ、デリヘルと主だった風俗産業形態全てを対象に調査する徹底さには脱帽するばかりだ。

キャバクラとホストクラブとでは客との関係性が異なるなどジェンダー役割を考える上で非常に興味深い記述もあるが、本書の最終分析においてより重要なのは、キャバクラなどのキャスト(サービスを提供する女性)の入職経路が主に「スカウト」であること、それらが「ストリート」でおこなわれることだ。

著者は、最終章において「歌舞伎町における諸活動相互の関連性に関するエッセンスとして『媒介=分離』という概念を提出」し、それが歌舞伎町における活動の再生産に関する「基礎的なパターン」と位置づけるが、その具体的な形の一つが、風俗産業―スカウト―キャストである。店舗とキャストのあいだに立つスカウトは、両者の関係の柔軟化に貢献しており、また店舗間移動を援助し、キャストの流動性を生み出す役割を果たしているという。そうやって、スカウトは風俗産業を維持しながらも、その不透明性を相対化する役割を果たしている。そして、スカウトがおこなわれるストリートは、店舗の不透明性と対照的な開放性を持っており、「絶えず歌舞伎町の外部から人びとを流入させる媒体」と表現されている。そのストリートにおいては、客引きやスカウトを防止するために振興組合によりパトロールがおこなわれているが、パトロールと客引きらとが時間帯などで棲み分ける形になりながら、パトロール側としては強引な客引きやスカウトが減り歌舞伎町の「怖い」イメージを回避できたことを評価する形で落ち着いているという話も面白い。

そして著者は、最終的に「整序されずに流動する細分性の集積」それこそが「風俗産業の再生産に貢献して」おり、そのような「歓楽街のなかにあるからこそ風俗産業が存続できる」と結論づける。

歌舞伎町という巨大で把握が困難な歓楽街をこのように多角的に調査できることへの感動すら覚えた。

しかし、あえて気になるところを挙げるとするなら、流動性や移動という点でも「媒介=分離」という意味でも重要そうな外国人の存在が見えて来ないことだろうか。その者たちへの調査が困難なことは想像に難くないが、もしそうならばそのアクセスの「できなさ」も知りたかった。だがそれは、ないものねだりの感想であり、本書が緻密で丁寧な研究であることは言うまでもない。
この記事の中でご紹介した本
生き延びる都市 新宿歌舞伎町の社会学/新曜社
生き延びる都市 新宿歌舞伎町の社会学
著 者:武岡 暢
出版社:新曜社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年5月19日 新聞掲載(第3190号)
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