あの人に会いたい 器作家・デザイナー イイホシユミコさん (下)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

▲トップへ

  1. 読書人トップ
  2. コラム
  3. あの人に会いたい
  4. あの人に会いたい 器作家・デザイナー イイホシユミコさん (下)・・・
あの人に会いたい
2016年7月22日

あの人に会いたい 器作家・デザイナー イイホシユミコさん (下)

このエントリーをはてなブックマークに追加
どんな料理を入れたい? 思いは膨らむ
料理好きなお母さまの影響もあって、イイホシユミコさんはさまざまな食器を見、食器にとても興味を持つようになった。学生時代は食器屋さんでアルバイトをし、就職先も雑貨の輸出入を扱う会社を選んだ。

「私、結婚が早くて二十二歳の時だったんです。夫は勤め人で朝早く出かけて行く。その時ね、早朝に出すコーヒーカップはどんなものがいいかと、考え始めました。手作りのものだとちょっと重たすぎるし、量産品では温かみのあるものがなかった。これからの一日を気持ちよく過ごすための始まりの時間に、本当に納得のいくものを使いたいと思って。趣味で陶芸は始めていましたが、もっと本格的に勉強したくて大学に行こうと決めました」

東京・原宿直営店でのイイホシユミコさん
なんと三〇歳のときに、京都嵯峨芸術大学の陶芸科に入学を果たす。「どうして大学に?」と私。「器を作ることをどうしても仕事にしたかった」とイイホシさんは言う。「どこかに修行に行くのも自分にはしっくりこないし。誰かにきちんと教えてもらいたくて学校に行くという選択をしました」。この人は、何をするにも徹底的で、遠回りも厭わないらしい。「そこで出会った先生は厳しかったけれど多くのことを学ばせてくれて。一歩進むごとに先が見えてきました」

二年間の学業を終え、マンションの一室に窯を持ってのスタートだったから、量産にはつながらなかった。「本当に少しづつ、少しづつでした」

当時と今も、イイホシさんの目指すものは変わっていないという。温かみはほしいが手作りのようなぽってりとしたものとは違う方向。家庭の中に置いて、あまり可愛らしすぎず、かといってスタイリッシュ過ぎず。ちょうど真ん中ぐらいのものをいつも模索している。

今、イイホシさんは自分でろくろをひいて一点一点作るハンドクラフトもするが、量産するために、イイホシさんが作った器をもとに型を起こして、各地の窯元で職人さんに作ってもらう“プロダクト"がより多くなっている。「ハンドクラフトもプロダクトも作ることは同じだし、よりよくしたいという何人かの知恵が入ることによって、作品がさらによくなっていく。この工程がとても楽しい」とも。だから、イイホシさんは陶芸家とは違い、デザイナーでありプロデューサーでもあるのだろう。
東京・原宿直営店でのイイホシユミコさん
もう一つ、イイホシさんの器のパッケージについては、ぜひ知っていただきたい。グレーのラフな素材の箱に“yumiko iihoshi porcelain"と印字された厚手のリボンが金色のホッチキスで止められている。「あれは実は業務用のネジや釘を仕分けするための表には出ない内箱なんです。当時は台東区のデザイナーズビレッジに私のアトリエがありました。箱屋さんが近くにあって。そこに頼み込んで私がリボンをつけて、器のための箱を組み立ててもらっていました」。あの箱の存在は、イイホシさんの作品の世界観を形にしたもので、化粧箱ではなく、シンプルで機能的なものに自分らしさをリボンで表現したいという、イイホシさんの気持ちが伝わる。だからとても捨ててしまうわけにはいかず、何に使おうかと私も考えている。

日本はもとより、海外のレストランからの注文もとても増えているイイホシさんの器。フランス料理の巨匠アラン・デュカスの店でも、プロダクトの器を使っているという。

「食パン一枚でも乗せた時においしそうに見える器。盛り付けた時に“わっ、おいしそう"と思えるもの。料理が絵になったり、品よく見えたりするのが器の力だと信じています」

四年前に『今日もどこかの食卓で』という本の中で紹介したライフスタイルも、今は少しずつ変化しているという。

「少ない持ち物で暮らすのがいいと思っていた時期もありますが、最近はいろいろなものを消費しながら、選択を繰り返すうちに新たな視野が生まれたらいいな、って思っているんです。いつも何かを選択しながら入れ替えていく。今はそれがとても楽しいと思うようになりました」

“器が好き"という思いは、イイホシさんが幼いころからずっと持ち続けてきたこと。その軸は変えずに、“これから作りたいものは何なのか?"を常に考え続けている華奢な女性は、ささやかなことを大切に暮らしを楽しみたいと思っている人たち、そして料理をよりおいしく見せてなおかつ丈夫な器を探し続ける、ちょっと荒々しいレストランのシェフの眼鏡にもかなうものを、これからも作り続けていくのだろう。
以下のオンライン書店でご購入できます
2016年7月22日 新聞掲載(第3149号)
このエントリーをはてなブックマークに追加