閉じこめられた僕 難病ALSが教えてくれた生きる勇気 / 藤元 健二(中央公論新社)生きられる命を生き切れ  読者の心は共鳴を起こして震える|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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読書人紙面掲載 書評
2017年5月22日

生きられる命を生き切れ 
読者の心は共鳴を起こして震える

閉じこめられた僕 難病ALSが教えてくれた生きる勇気
著 者:藤元 健二
出版社:中央公論新社
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著者が病気とどう向き合ったかを描いた壮絶な闘病記である。まえがきを読むと、「ALSは僕の天職」という言葉にいきなり出会う。難病、そして障害を天職と言うのは容易ではない。著者は何かを悟ったのかもしれないし、虚勢を張って敢えてそういう言葉を使っているのかもしれない。天職という言葉から物語がスタートすることで、いやがうえに期待感が高まる。

ALS=筋萎縮性側索硬化症とは、運動ニューロンが冒されることで全身の筋肉が動かなくなる難病・稀少疾患である。誰にでも起こり得る病気であるが、その成因は不明のままだ。根本的な治療方法はなく、発病すると数年で呼吸ができなくなり死に至る。ただし人工呼吸器を装着すれば一〇年以上生きることができる。ところが、呼吸器を付ける患者はおよそ三〇%に過ぎない。つまりこの病気の最も恐ろしい点は、生死を選択させられることにある。最後まで保たれる筋肉は眼球の動きで、本書も著者の視線をパソコンが読み取ることで執筆された。

本書は前半と後半で著者の精神状態のトーンが大きく異なる。前半の著者は、二四時間全介護の状態にあるものの、声はまだ失っておらず食事も口から摂ることが可能である。つまりいずれ呼吸器を付ける判断を迫られるにしても、著者は前を向き生きることに執念を燃やしていたと言える。

後半、暗転する。意識消失した著者は一命を取りとめるが、肺炎・心筋梗塞・末期胃がんが明らかになり、気管切開を施され人工呼吸器の生活になる。ここからの著者は不安と恐怖と不眠に徹底的に苛まれる。その苦しさは読者の胸を締めつける。前半とのコントラストはあまりにも激しい。どんな人でも人生の最後には、治らない病気にかかり死んでいく。つまり万人が死に至る病を迎える。著者もそのことを十二分に知っているのだが、迫り来る死を受け入れる気持ちに到達しない。それはなぜだろう。おそらく筆者には、生きたいという気持ちが誰よりも強くあったからではないだろうか。

人が人間になるためには「間」が必要であると著者は言う。「間」とはもちろんコミュニケーションのことである。気管切開は声を奪うだけでなく、人間から「間」を奪う。全身の筋肉が動かないALS患者にとって、声を喪失することは著者が予測した以上に辛い経験だった。その辛さがストレートに文章に表れる。まえがきで書かれた天職という言葉はここで終わるようにも読める。しかしそれは読者にとって失望ではない。剥き出しの生きる姿を強烈に見せられることで、読者の心は共鳴を起こして震える。外からはたとえきれいに見えなくても、生きられる命を生き切れとこの本は叫んでいる。
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2017年5月19日 新聞掲載(第3190号)
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