本を守ろうとする猫の話 / 夏川 草介(小学館)夏川 草介著 『本を守ろうとする猫の話』 関西学院大学 大澤 芽依|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年5月22日

夏川 草介著 『本を守ろうとする猫の話』
関西学院大学 大澤 芽依

本を守ろうとする猫の話
出版社:小学館
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「あなたは本を読みますか」「月/週の読書の量はどのくらいですか」就学してから今に至るまで、これらの質問を幾度となく聞いた。いわゆる「読書に関するアンケート」というものだ。解答方法はいたってシンプル。与えられた選択肢のうちひとつ選び黒く塗りつぶす。誰にでも覚えはあるだろう。だが、正直に白状すると私はこういったアンケートで真剣に考えたことがない。記述式だったとしてもそうだ。「あなたはなぜ本が好き、または嫌いですか」「あなたにとって読書とは何ですか」といった質問に対し「好き、知識が増える」「趣味」など適当かつ端的に書いて提出してしまう。

そんな私がこの本を読んで「本」について考えた。一見、この物語はただのファンタジーだ。主人公の夏木林太郎は亡くなった祖父の経営していた古書店で人の言葉をしゃべる猫と出会う。猫は言う、本を助け出さねばならない、わしに力を貸せ、と。林太郎と猫は本を閉じ込めたり、切り刻んだり、売りさばいてる者たちから本を救出し、さらには連れ去られた友達を救出するため、長い年月の中で心をもった本自身とも対峙する。現実の世界には巨大なガラスケースに本を閉じ込めたり、鋏で大量の本を切り刻んで残った一文を本と呼ぶような人はいない。ましてや本を消耗品と称してビルの窓から地上にまき散らしている出版社の社長など聞いたこともない。だが、本当にそうだろうか。そこで語られていることはすべて現実だ。「より多くの本を読むことが求められている」「時代の要望に応えなければ、傑作は生き残れない」「本が生き残るためには、本そのものが姿を変えていくしかない」彼らのありえないような行動は、本が好きで起こしたものなのだ。好きだからこそ時代の流れについていけなくなった本たちをいささか滑稽な方法で救おうとしたのだ。そんな現状で本のある意味を本自身は林太郎に問いかける――

私も本が好きだ。小さい頃からファンタジー世界を少年少女が冒険するような物語をワクワクしながら読んできた。登場人物達はそれぞれ異なった価値観を持っていてそれがときに正義に、ときに悪となり衝突しながらも問題を解決していこうとする。現実でもそれが原因となっていさかいになることはよくある。価値観は育った環境によって構成されるものだ。それゆえに親や学校の先生たちの教育が重視されている。だが、それだけでは限界がある。本を多く読めば読むほど自分の知らない新しい価値観に出会えるだろう。中にはどうしても理解できないようなものもあるはずだ。だけど、世の中に自分とはまったく違うものの見方があるのだと知ることは、知らないままでいるよりもずっといい。例え自分とは異なる意見の人がいてもそのことで心を閉ざしたり、否定したりせずにいられる。「私はこう思うけれど、あなたはこう考えるんだね」そこにはどちらかが正しくてどちらかが間違っているという否定はない。どちらも一つの意見でしかないことを知っているからだ。

林太郎は本自身の問いかけに、それでも本の力を信じていると答えた。「人を思う心」を教えてくれる力が本の力だ、と。私の考える本の力、それは他人を受け入れて、相手の心を大切にすることを教えてくれる力だ。あなたの考える本の力はどんな力だろう。

この記事の中でご紹介した本
本を守ろうとする猫の話/小学館
本を守ろうとする猫の話
著 者:夏川 草介
出版社:小学館
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年5月19日 新聞掲載(第3190号)
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