日本英文学会第89回全国大会開催を機に (5月20・21日 於静岡大学) 文系と理系のインターフェイス|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年5月22日

日本英文学会第89回全国大会開催を機に (5月20・21日 於静岡大学)
文系と理系のインターフェイス

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「日本英文学会第八十九回大会」が静岡大学で開催される。昨今の理系重視のさびしい風潮の中、静岡に多くの文系研究者が集い、伝統ある学会が研鑽と交流の場となることに開催大学教員として誇らしさすら感じる。

さて、主として文系教育を受けて育った私の専門である「英語学・言語学」はphilologyとlinguis―ticsという英単語が対応するように、文系・理系両方の顔を持つ。前者には一例として、言葉の持つ様々な「意味素性」の選択による「発話」という行為が、外界に与える影響を分析する研究がある。比喩を解釈したり、会話における情報伝達の気配りを論じたりという領域は文学に通じる薫りがほとばしる。身近な例をあげてみよう。

静岡の新茶の摘み取り時期を背景にした「みるい」という方言がある。この形容詞には「新茶の若葉のように柔らかくて青々しく、健やかな成長に期待をこめる」意味と、「成長したにもかかわらず少し幼さが残っている」という解釈が並立する。どちらの意味が優先するかは、使われる状況に依存する。言葉の裏に潜む意味(言外の意味)とその使用状況との関連性を調べるのは実に面白い。
これに対してlinguis―tics系の英語学・言語学の列車は、文系の軌道から分かれて、言葉の内部構造や習得過程の分析という専用路線を構築する。その象徴が「生成文法理論」の爆発的発展である。統語論を中心とした「仮説―検証」型の科学的手法を前面に押し出し、データ中心のクールな分析を土台にホットな議論が交わされている。二十一世紀に入ってからは、母語習得機構を人間の生体機能の一部分として位置づけ、他機能との接合領域を意識した研究が盛んである。最近も『増補版 チョムスキー理論辞典』(原口・中村・金子編、研究社、二〇一六年)が刊行されている。

ところで、理系分野と比較するとわれわれ文系の学問研究は目に見える形で表現かつ貢献する具体物が出にくいという泣き所がある。では少しだけそれを克服するにはどうしたらよいか。「機能的統語論」では、生成文法研究を補完する立場で統語構造に言語の意味と使用を関連づける。『謎解きの英文法』(久野暲・高見健一著、くろしお出版、二〇〇四年~)シリーズは、学校文法を超えた現象の分析にまで及び、英語教育への応用が期待できる。

また、英語には譲れない統語(形式)と、それに対応する意味の柔軟な表現方法の間にミスマッチ(ギャップ)が生じる場合がある。『英語らしい表現と英文法』(福地肇著、研究社、一九九五年)における、名詞句(節)に圧縮される文的な意味との対応関係に焦点を当てた論考は、理系の線路を文系の列車が巡っているような不思議な世界を体験する。

近年、英米文学研究と英語学・言語学研究は距離を置くようになったという発言を耳にする。しかし両者は共に「英語」という言語を研究対象にして、まず英語の理解が出発点となる。その理解の手引きとして伝統文法が重要な役割を果たすことは疑いない。英文の味読は文法を駆使する精読から始まり、さらに生成文法理論で用いる母語話者の言語直観や構文構造探索と、文法は有機的に関係している。「古きものを大事に」ということを実感する。『実用英文典』(齋藤秀三郎著・中村捷訳述、開拓社、二〇一五年)、や『名著に学ぶ これからの英語教育と教授法』(中村捷著、開拓社、二〇一六年)の中の英文法学者の古典的名著解題解説を読んで、言葉の研究は伝統文法的視点から出発して、その精神は現代の英語学・言語学そして英米文学の研究に応用されていることを知らされた思いがする。

「言葉は人間の心の表象」である。「英語」を扱うという共通点に立ち、英米文学と英語学のインターフェイスはどのように位置づけられて展開していくのだろうか。英文学会の発展が、文系と理系の学問研究の融合の場の増加にもつながることを願いたい。
この記事の中でご紹介した本
《増補版》チョムスキー理論辞典 /研究社
《増補版》チョムスキー理論辞典 
著 者:原口 庄輔 、中村 捷、金子 義明
出版社:研究社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年5月19日 新聞掲載(第3190号)
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