島田修三『晴朗悲歌集』(1991) BVDのブリーフつけて血に濡れてかの日の川俣軍司いとほし|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2017年5月30日

BVDのブリーフつけて血に濡れてかの日の川俣軍司いとほし
島田修三『晴朗悲歌集』(1991)

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実在の犯罪者が実名で詠み込まれているというなかなか珍しい歌である。川俣軍司は1981年に発生した、深川通り魔殺人事件の犯人。白昼堂々に幼児を含む6人を死傷させ、覚せい剤中毒者の凶行の象徴となった事件だ。警察に連行されるときの犯人が、猿ぐつわを噛まされ下半身は白ブリーフ一枚にハイソックスという異様な風体だったため、ビートたけしに散々笑いのネタにされた。

なんでも犯人は犯行時に下半身が裸だったらしく、マスコミもいるのにそのまま連行するわけにはいかないと判断した警察がとりあえず適当な下着を穿かせた。それがBVDのブリーフだった。BVDはニューヨーク発の男性下着ブランドとして当時人気があったのだが、この事件がきっかけでブランドイメージに傷がつき、ブリーフそのものの人気もガタ落ちしたといわれる。男性の下着というところに文化的な影響を与えた奇妙な事件であった。

掲出歌では川俣軍司という強烈な男に対して「いとほし」と詠んでいるけれど、これは現代語でいうところの「ヤバい」みたいもので、いい意味でも悪い意味でもとにかく凄まじいという意味合いだろう。万葉学者でもある作者は、俗にまみれた現代的モチーフをとりあげて、わざと古典的な語法で表現するという遊びをよくやるのだ。川俣軍司という名前は今はもう忘れられかけているだろうが、こんなふうに現代短歌によって強烈に刻みつけられている例も存在するのである。
2017年5月26日 新聞掲載(第3191号)
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