【横尾 忠則】太極拳と鯉の老人 早朝の謎の貴婦人と蛇|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの向こう側
2017年5月30日

太極拳と鯉の老人 早朝の謎の貴婦人と蛇

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十和田市現代美術館のスタッフ達と。後列右端、小池一子館長(撮影・徳永明美)
2017.5.15
 光文社新書から出版される朝日新聞の書評集に挿入される本の表紙撮影。8年間で150冊はもし書評を担当していなかったら多分十分の一の読書量だったろう。

英の誕生祝いを家族で近くのレストランで。「ボク還暦だと知っていた?」。知らないにきまっているけれど、その内、親の年齢を追い越しそう。

2017.5.16
 曇。「トランジット」の加藤さんが新雑誌「アトランティス」を発刊する。見えないものに焦点を当てるという。見えないものは今の日本の政治だ。

2017.5.17
 10年来海外旅行は中止している。そのせいか海外のホテルが舞台の夢をよく見る。いつもひとりでとり残されている夢だ。ラーメンが食べたくなりホテルの前に立っているとホキ徳田さんが現われて「行きましょう」とタクシーを止める。ポケットには一銭もない。まさか女性にたかるわけにはいかない。探しまくってやっと500$が見つかった。語る程の夢ではない。

今日は描いて描いて描きまくる。アタマとテがひとつになってくれない。次第に泥沼に沈んでいく。新しい局面に向いつつある証拠だ。

2017.5.18
 真暗な寝室が急にポッと明るくなって、妻が昔のワンピース姿で立っている。「まだ起きていたの?」と聞くとスッと明りが消えて元の暗闇に変って、目が覚める。すると今のは夢? 夢と現実が同一スティエーションとは一体どういうこと。以前にも同じことがあったが、あれが妻だったからいいもののもし他人だったら幽霊ということになる。

2017.5.19
 また海外に来ている夢だ。ホテルを出て歩いていると、大きいパブの中に田中一光さん、永井一正さん、浅葉克己さんの三人が大きいテーブルを囲んでいるのを発見。どうやらデザイン会議に出席したらしい。永井さんは読売新聞を広げて、「会議の記事が出ないのがどうも悩ましい」、と不満を漏らす。

アメリカのセントルイス美術館の日本版画展への出品要請がNYのぼくの画廊経由で連絡あり。

2017.5.20
 今日は真夏日になるというので8時半にアトリエに出勤。

玉川病院の皮膚科へ。帰路、成城補聴器で補聴器の調整を。自分の声が変質して聴こえるのが不快。

三省堂で『病気の9割は歩くだけで治る!』と『「薬のやめ方」事典』と『薬に頼らず血圧を下げる方法』を買う。

本に習って40分程歩く。ヘトヘトだが快感でもある。

2017.5.21
 6時半に早朝散歩。すでに公園には大勢の散歩者の姿あり。蟻も忙しく散歩している。寝起きの重い足を引きづって歩く。僕より年長の老人がどんどん追い越していく。川から吹き上げてくる涼風に背を押されながら、歩を早めるが、前を歩く老人の距離は縮まらない。高台の公園へ行くと30~40人の高齢者が芝生の広場で太極拳に興じている。しばらくベンチに腰を下して見学。近くの用水で鯉にエサをやる老人。「大きい鯉ばかりがエサを食べる」とぼやきながら、パン屑をちぎって投げている。メダカのような鯉の稚魚が水中で群がっている。高台から下りて木立のある芝生の脇のベンチでお茶を飲んでいると、フラゴナールの絵から抜け出したようなロココ趣味の貴婦人が僕の前を通り過ぎながら軽く会釈をしたので僕もあわてて会釈を返した。白い手袋に大きい婦人帽のその婦人は背が高く老齢の高峰三枝子似に思えた。こんな早朝、正装して散歩をするこの婦人は一体何者だろう? 今見たのはもしかしたら幻視だったのではと思ったが、意外と早足でスタスタと遠ざかって行った。来た道とは別の森の脇の道路を通って帰る。四、五人の高齢者が何やら深刻な会話を交しているが、その足元には大きい猫が気持よさそうに寝そべっている。そのすじ向いの家の門柱を一匹の蛇がニョロニョロと這い上っているところだ。やがて屋敷の中に這入って行くことだろう。

こんな早朝の出来事を山田さんに話すと、例の貴婦人に興味を持たれ、「来週の日曜日の早朝に行ってみるかな」と。今朝「出た」からといって毎日曜ごとに「出る」とは限らない早朝の白日夢でありました。

夜、成城整体院で山田さんと一緒になる。
2017年5月26日 新聞掲載(第3191号)
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