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Forget-me-not
2017年5月30日

Forget-me-not(21)

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親しい友人や家族にカミングアウト
を始める少し前に手帳に描いていた絵。
雨が降り続ける世の中でも
地面に根を張りながら生きていきたいという決意を含んでいる。
ⒸKeiji fujimoto
ゆかりは、その人目を惹く華やかな見た目とは裏腹に、時折表情に現れる暗い影が印象的な女性だった。

ヘビを飼い、琴を弾く。アングラミュージックを好む。成長過程における葛藤からなのか、世の中に感じ続ける矛盾からなのか、彼女の行動は多数派とは違う何かをすることで同化を強要してくる社会に抗おうとしているかの様に見えた。

生き方が不器用だという点で僕たちはよく似ていた。同じキャンパスで過ごした数年間を経て、卒業後にゆかりは都内で職を転々としながら最終的には骨董商に居場所を見つけた。一方でネパールやニューヨークに暮らし幾つか写真関連の仕事に携わった僕は人生をかけて何をしていくのかという結論を先延ばしに
していた。

2009年、ドキュメンタリー写真の世界に腰を据える決断をして日本に一時帰国した僕は、自分自身のセクシャリティにもしっかりと向き合っていかなければいけないと考えていた。当時の僕にとってそれは親しい友人や家族にゲイであることをカミングアウトすることであり、その初めての相手としてゆかりを選んだ。

「話してくれてありがとう。うちにはあんたという存在が誇らしいよ」

間接照明に照らされた薄暗い部屋の中、ゆかりは言葉で優しく包容してくれた。憐れみや慈しみではない、友人の告白を受けとめる眼が、心が、僕を静かに見守っているのだった。
2017年5月26日 新聞掲載(第3191号)
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