落語に学ぶ大人の極意 / 稲田 和宏(平凡社)落語から現代にも通じる交際術を学ぶ一冊。 立命館大学 余田 葵|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年5月29日

落語から現代にも通じる交際術を学ぶ一冊。
立命館大学 余田 葵

落語に学ぶ大人の極意
著 者:稲田 和宏
出版社:平凡社
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大学生に限らず、人間誰もが一度は悩むことがある。それは、人との関わり方である。人は生まれてから死ぬまで誰かの手助けを得ながら生きてゆく。『落語に学ぶ大人の極意』では、三十席の落語とともに、「私」を主人公としたミニドラマが進行する。友人関係・ご近所トラブル・謝罪術にお金の話まで、私たちが日ごろ悩む人付き合いに関する問題に、落語が答えてくれている。

例えば、「第一章大人の友情 第三節ウマの合う奴」では、「長短」という落語から、人付き合いのコツを説いている。「長短」は気の長い長兵衛と、気の短い短七という二人の幼なじみを描く落語だ。短七は長兵衛ののんびりした口調にさえいらいらしてしまうが、ある日長兵衛が怒らないで聞いてくれと前置きをして話し始めた。短七はたばこをふかしながら辛抱して聞いていると、なんとたばこの不始末で短七のきもののすそが燃えているというのだ。驚いた短七、そんなことはもっと早く言えと怒鳴ったものだから、長兵衛は「ほら、やっぱり怒る、だから言わねえほうが良かったんだ」とつぶやくという落語である。

この落語を題材にして、著者は次のように述べている。
「ようは、性格とか価値観なんていうのは、人付き合いにはあまり関係がない。話なんか噛み合わなくても、人は案外仲良く出来る。

ウマが合うか合わないかが大きなキーとなる。ウマが合わないかどうかは、付き合ってみなければわからない。表面的な性格や価値観だけで判断してはいけない。」

一見仲の悪そうな二人が仲良くできるのはなぜだろうか。それは、世の中には様々な人がいることを二人が知っているからである。江戸時代、多くの庶民は長屋に住んでいた。住民は、大工や左官、屋根ふきや髪結などの職人、野菜や魚などを売り歩く棒手ふりなど、職種も性格もさまざま。障子一枚開ければお互いの生活がまる見えというのがあたり前で、長屋には多様な価値観があふれ、人々は皆助け合って生きていた。幼いころから様々な人と関わってきた長兵衛と短七は、世の中には多様な価値観があることを無意識のレベルで知っているから、仲良くできるのだ。

時の流れの中で、私たちは様々な格差を作り出してしまった。自分と同じような立場・価値観の人と付き合うことが多くなり、言葉では多様な価値観があることを知っていたとしても、体験することが難しくなっている。

情報化社会の昨今、SNSが急速に発達し、仲間はずれをはじめとしたSNS上でのいじめが大きな社会問題となっている。自分と似た思考の人を選んでコミュニケーションをとってしまうのだ。また、難民の救済・支援についても様々な世論がなされている。難民受け入れが問題となっているが、長屋の住民は快く受け入れたのではないだろうか。困ったときはお互いさま、世の中同じ価値観の人間だけでは成り立たないことを長屋の人々は身をもって知っていたのだ。

落語は、そんな長屋の人々の人生観を教えてくれる。単なる笑い噺ではないのだ。それだけの魅力がつまっている落語から学ぶ極意は、人生のどこかで必ず役に立つだろう。

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2017年5月26日 新聞掲載(第3191号)
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