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Forget-me-not
2017年6月6日

Forget-me-not(22)

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泥酔した男性客とダンスを踊るフェリックス(左)。ⒸKeiji fujimoto
 
ある日、ナイロビの部屋でタバコを吸っていた僕の元に電話がかかってきた。

「フェリックスが行方不明になってしまったんだ。敬二は何か心当たりはない?」

僕がケニアにやってきて一番最初に撮影を始めたのが西部の街・キスムに暮らす男娼のフェリックスだった。そんな彼が数週間前から全ての友人と連絡を断ち、現在の行方は誰にも分からないというのだ。

僕はとりあえずカバンに最低限のものを詰め込むと、長距離バスに乗るためダウンタウンに向かった。

キスムに到着し彼の友人達に会うと、連絡が取れなくなる数週間前からフェリックスは誰とも口をきかなくなっていたという。たまに笑みを浮かべた時だけ昔のフェリックスが戻ってきた様だったが、誰にも分からない曲を口笛で吹いたりしていたそうだ。

そしてある晩、家を出た。これは日課だった。仕事である。しかし翌朝、彼が親戚の待つ家に戻ることはなかった。

「一ヶ月近くも連絡が取れないことなんて初めてだ」と彼の友人達は異口同音に言う。その夜、僕は一人でよく一緒に行ったパブでお酒を飲みながら、彼が現在なにをしているのか想像した。

29歳のフェリックスは、広い青空の下でひとりぼっちだった。
2017年6月2日 新聞掲載(第3192号)
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