沖縄独立、または琉球復国 “ヤマトは帰るべき「祖国」ではなかった”|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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論潮
2017年6月6日

沖縄独立、または琉球復国 “ヤマトは帰るべき「祖国」ではなかった”

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沖縄は五月十五日に復帰四十五年を迎えた。六月二十三日には慰霊の日を迎える。戦中には本土決戦前の“捨て石”として、戦後には“太平洋の要石”として、沖縄は利用されてきた。地上戦では十二万人強、四人に一人の県民が亡くなり、今日でも在日米軍基地の七割が集中する。

鉄の暴風(艦砲射撃)、銃剣とブルドーザー(軍用地強制接収)、基地の中に島がある、等々――どれほど言葉を連ねても、沖縄の人々の思いを語り尽くせまい。ここでは、大山朝常『沖縄独立宣言』(現代書林、一九九七年)を挙げておく。「沖縄を知らないヤマトンチュ[大和人]に、また若いウチナーンチュ[沖縄人]に、ぜひこの本を読んでいただきたい」。本書は、普天間基地移設問題の発端となった米兵少女暴行事件を受け、「キチガイ」(基地街)の元コザ市長により「遺書」として上梓された。「ヤマトは帰るべき「祖国」ではなかった」。出版から二十年。普天間は辺野古へたらい回しだ。高江でも“土人”の反対運動が続く。山城博治氏の長期勾留もあった。昨年には強姦殺人事件も起きた。依然、島も人も石ころ扱いだ。「七二年、核抜き、本土並み」? 守られたのは年だけだ。近年、大山氏の遺志を継ぐかのように、沖縄独立論が勢いを増しつつある。

島袋純氏は、「スコットランドをモデルに」沖縄の独立または自治州の創設を提唱する(島袋純「沖縄の自立・独立への指標」『情況』一七年春号)。スコットランドでは英国からの分権により、一九九九年に議会と政府が設置された。独立を問う住民投票が二〇一四年に実施され、二度目の投票も模索されている。島袋氏が強調するのは、「スコットランドの分権のプロセスが、極めて立憲主義的であること」だ。「まず、手続きとしての「権利章典」があり、人権・主権在民を掲げ、人民が憲法制定権力を持つ、そう宣言して独立運動を起こす、あるいは新たな政府を創造する」。それは「狭隘な偏見に満ちた民族主義」ではない。

銃剣とブルドーザー後の「五〇年代の島ぐるみ闘争」は、「土地の権利に関する宣言」から起きた。それは「基本的人権の要求」で、闘争の最盛期には「琉球立法院も琉球政府も市町村もみんな解散して権力機構を再構成しよう」という「議論が出ていた」。「復帰の時に、「沖縄における公用地暫定使用法」とか無茶苦茶な法律で人権侵害が合法化され」たため、「人権侵害は今でも続いている」。ならば、沖縄は「土地への権利を掲げて権力機構を再構成」できる。だが「日本政府」によると、「これは人権問題ではない」。土地の「強制接収」が「普天間問題の原点」と主張する沖縄県に対し、菅官房長官は「賛同できない」と応じた(鹿野政直、新城郁夫「沖縄を生きるということ」『世界』三・四月号)。ダブルスピークは「全体主義」の典型的特徴だ(オーウェル『一九八四年』)。共鳴者と腹心の友への土地提供や、石ころからの土地収奪や、「真理省」まがいの歴史改竄は、“総理のご意向”にかなう。

島袋氏いわく「自治か独立か」以前に「自決権があるかないかが重要」で、「ある」という「意識は沖縄でどんどん強まっている」。琉球新報の調査でも(一月一日)、自治権強化を望む県民は五年前と比べ十五%増の三五%、現行通りを望む県民は同十五%減の四六%で、半数を割った。五年後には逆転する勢いだ。県民が「日本社会の立憲主義」を「諦めきったら」、十ポイント差はおろか、自治派も「独立派へ移行」するだろう。五十嵐敬喜氏は、「政府は復帰前のコザ暴動から学ぶべき」という沖縄タイムスの社説を引用し(一六年十二月二一日)、沖縄で高まる「住民投票」の機運を、もし政府が「弾圧・無視するとすれば」、社説の「主張は強いリアリティを帯びてくる」と警告する(五十嵐敬喜「辺野古裁判」『世界』四月号)。

「自民党の憲法改正案が通った時は、日本の立憲主義はもう終わりで」、「沖縄は基本的に独立せざるを得ない」と島袋氏は言う。沖縄独立で問われているのは、日本の立憲主義のあり方だ。もっとも、改憲案成立後には「公の秩序を維持」するために、「国防軍」が出動する(改憲案九条)。第二の地上戦を避けるなら、改憲案成立前に、沖縄は独立するとよい。

島袋氏は国際法の観点からも、独立または自治州の可能性を探る(島袋純「国際立憲主義の実現で沖縄への構造的差別を撤廃させる」『情況』)。「日本による琉球併合の継続」は、条約の「強制」を禁じる「ウィーン条約」に反する。「土地」の「強奪」を禁じた「ハーグ陸戦条約」を、「占領軍」は「完全に無視」した。「さらにそれを日本政府が保障する」ことで、「沖縄返還協定が結ばれた」。その際の「土地強奪の法的根拠」が上述の「沖縄における公用地暫定使用法」だが、それは「沖縄にしか適用されない法律」だから、「住民の投票」による「過半数の同意」を定めた「憲法九五条」に反する。安倍政権が強行採決を連発しているようなものだ。立憲主義に反し、すべて無効である。「サンフランシスコ講和条約」により、沖縄は米国の「信託統治」となった。日本が主権を回復した同条約の発効日を、沖縄では“屈辱の日”と呼ぶが、信託統治は「戦勝国が将来的な独立を前提として国連により承認された施政権者となるもの」だ。あとは沖縄の人々の意思次第だ。

松島泰勝氏は、経済の観点から琉球復国を唱える(松島泰勝「いま、すぐにでも経済的独立は可能です」『情況』)。「日本人からは「基地経済と振興策がなくても沖縄経済はやっていけるのか」という疑問がしばしばぶつけられる」が、その二つこそが「いまは琉球経済の阻害物になっている」。「復帰後に県民所得の十五パーセントだった」基地経済は、「いまではわずか五パーセント」だ。「基地の跡地利用」でできた「那覇新都心」などでは、「税金も雇用もおおむね三〇倍以上」になった。「観光業」は「毎年一割ほど、右肩上がり」で、「返還後に五十六万人だった」観光客は、四年前に「五百万人を突破」し、「いまは八百万人」だ。「基地関連収入の三倍」になる。

観光関連が「全産業の三分の一」を占めるため、「観光資源の保護が、琉球経済にとってはもうひとつの課題」だ。「名護市の稲嶺進市長」が「新基地建設に反対したのは、まさに観光資源を守りたいから」だ。同市辺野古の海は、ジュゴンをはじめ世界級の生物多様性を誇る。石破茂氏はその名護市長選で、稲嶺氏の対立候補の応援演説に立ち、五〇〇億円の振興基金を打ち出した。地方創生担当相を務めた次期首相候補が、時代錯誤の振興策を自信満々に披露するとは。無才ぶり以前に、“札束で頬をたたくやり方”と厚顔ぶりが笑われたが。松島氏によると、振興策には「政府が予算を決めて本土のゼネコン・商社が動く」という「利益回収構造がある」。現代版植民地だ。「もうやめたほうがいい」。「観光産業」の「声」だ。

上述の米兵少女暴行事件時に、日本商工会議所会頭は事件を“ささいなこと、本質でないこと”と評し、基地は“本土が代わって負担することではない”と語った。人権よりも金儲けだ。“沖縄を何だと思っているんだ”と憤った当時の大田昌秀県政と、今日の翁長雄志県政の違いは支持層にあり、「観光資本が基地撤去の立場に変わった」。沖縄の代表的経済人で、新基地反対の「辺野古基金」や「オール沖縄会議」の共同代表を務める呉屋守將氏も、「基地」は「経済発展の阻害要因でしかありません」と言い切る(呉屋守將「沖縄の未来に新基地はいらない」『世界』)。基地の強要が続けば、沖縄は経済的自立から政治的自治か独立へ、いずれ舵を切る。

王朝時代の琉球貿易のように、松島氏は「太平洋諸島フォーラム(PIF)」に思いを馳せる。「太平洋の島嶼国」のほか「オーストラリア」や「ニュージーランド」が構成国で、「国連」も「オブザーバーで参加」する、広域の政治経済圏だ。「琉球」も「参加することで、PIFと国連の後押しで平和的に独立することが可能だ」。「サンフランシスコ講和条約」等に反するとして、「中華民国」が沖縄の「日本復帰」に「反対」した点を踏まえ、「独立後の政治的な地位」は「国際法的には「分離独立」ではなく「復国」となる」。ただし「共和国」が「望ましい」。

琉球復国は、民族主義的言動も誘発するだろう。だが復国のプロセスは“極めて立憲主義的であること”を望みたい。パン屋も和菓子屋も愛国心不足などと教える、醜悪な琉球共和国を見たくない。官房長官の改竄に抗して「戦後沖縄・歴史認識アピール」(『世界』一六年一月号)を発表し、八十五歳を超えてなお「高江に座り込みに行く」鹿野氏のようなヤマトンチュもいる。

「戦争は平和なり、自由は隷従なり、無知は力なり」(『一九八四年』)。安保法制は積極的平和なり、共謀罪はテロ等準備罪なり、知る権利の侵害は特定秘密保護なり。「ビッグ・ブラザーは見ている」。沖縄の人々が小説の主人公同様、ディストピアに従順になり果て、総理「大兄を愛した」としたら、悲喜劇ならぬ喜悲劇だ。全体主義の終わりは、無知の力でなく無知の知から始まる。
(おもて・かずや=法政大学、立教大学、早稲田大学非常勤講師・政治思想)

2017年6月2日 新聞掲載(第3192号)
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