大阪的 コーヒーと一冊(11) / 江弘 毅(ミシマ社)津村 記久子・江弘 毅 著『大阪的 コーヒーと一冊(11)』  近畿大学大学院 中山 心|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年6月5日

津村 記久子・江弘 毅 著『大阪的 コーヒーと一冊(11)』 
近畿大学大学院 中山 心

大阪的 コーヒーと一冊(11)
著 者:江弘 毅、津村 記久子
出版社:ミシマ社
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個性的でおもしろくて人懐っこいけどお節介でうるさい。大阪はそんなイメージが抱かれがちだ。働く人の目線で書いた仕事小説で知られる津村と、だんじりや大阪の街についての著述も多い編集者の江が語っていく。コーヒータイムに読み切れるような本を、というコンセプトで発売された「コーヒーと一冊」シリーズの第十一弾だ。津村、江それぞれのエッセイと対談が二本収められていて、大阪人にもそうでない人にも一読の価値がある。

特に大阪人にはぜひ冒頭のエッセイから読んでほしい。大阪生まれ大阪育ちの二人から見た大阪は、自己主張は得意だが自己紹介は苦手な不器用な姿をしている。津村が言及する外から大阪を見た時に感じる気恥ずかしさと意外な凡庸さが腑に落ちるなら、きっと「おもろい」一冊になるはずだ。もちろん、大阪以外の読者も充分楽しめる。むしろ「大阪についてメディアでのイメージしかない」という方にこそ読んでもらいたい。津村は大阪を「長女へのコンプレックスを持った次女」に例えているが、まさにそうなのだ。東京お姉ちゃんと地方の妹たちに挟まれてうまく自分の色を出せない次女大阪のことが少しだけ理解できるはずである。

本書で描かれる大阪は「日本第二の都市を自称する大阪」でもましてや「東京をライバル視する大阪」でもない。終始、大きな地方都市として扱われる。いくつものローカルが集まってできた「ローカル連合」。それが大阪なのだ。私は大阪生まれ大阪育ち、両親も大阪人という生粋の大阪人だが、大阪を一枚岩だと決めてかかってしまっていた。さまざまな人や文化があるのに、雑多な大阪像に気づかず生きている人は多いのかもしれない。高槻もなんばも岸和田もすべて大阪だが一つではないのだ。「中心がない」からこそ多様なままでいられる。その多様性こそが長所なのだ。

さらに、多様性についての話は次第に大阪論からローカル論へと推移していく。大阪だけでなく「世の中の場所は全部ローカル」。しかし、それは他を排斥して内向きに籠ることを意味するわけではない。中心的な文化をただ受け入れるのではなく、疑いの視線を常に持つ。「トランプってヅラかなと思い続けないとあかん」ということなのだ。グローバリゼーションが謳われている今、少し立ち止まってローカルなものに目を向けてみることが大事なのかもしれない。文化を均質化しなくとも人は同じような性質をもっている。自分の土地に根付いたものとほかの土地のものは違うけれど、そこに住まう人々の感性は自分たちと同じなのだ。江の「違うし同じや、っていうのは、違うことがわかる同じさや」という言葉にあるように、ローカルな部分はローカルなままでいてこそ魅力が発揮される。地元の中学校で教科書の英文を普段自分たちが使っている言葉に直すという試みがなされていたが、そんな風にグローバルとローカルが繋がることが大事なのではないだろうかと考える一冊だった。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年6月2日 新聞掲載(第3192号)
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この記事の中でご紹介した本
大阪的 コーヒーと一冊(11)/ミシマ社
大阪的 コーヒーと一冊(11)
著 者:江弘 毅、津村 記久子
出版社:ミシマ社
以下のオンライン書店でご購入できます
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