【横尾 忠則】死後鑑定は全部贋作?80年、人生の幸せの時。|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
2017年6月13日

死後鑑定は全部贋作?80年、人生の幸せの時。

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2017.5.29
 中国の「知日」誌がほぼマル一冊ぼくの特集をすることになっているけれど要求する作品や写真が厖大なので半分以下に減らす交渉をする。そのついでに頼まれたのはこの雑誌の別号で三島由紀夫特集も出すそーで、三島さんについてのエピソードなどもしゃべらされる。

2017.5.30
 もう出き上っていたと思っていた十和田市現代美術館への新作がいじくり廻している内にドンドン変化していく。もうこの辺で手を引きたいと思って破壊するつもりで絵具を画面にドバーッとたらしてハイ完成。

2017.5.31
 
箱根彫刻の森美術館近くのY字路にて、
黒河内卓郎さん、与田美樹さんと(撮影・徳永明美)
箱根・彫刻の森美術館で開催中の篠山紀信写真展で以前撮ってもらったアトリエのシノラマ作品を見に行く。フジテレビギャラリーで発表した30年前の作品がアトリエの中にギシギシに並んでいる写真。写っている自分は全然若い。ついこないだって感じだったのに。

美術館に着く前に小田原でロマンスカーを降りてうなぎ屋の友栄へ。以前「文藝」の鼎談に美術館へ行く途中、保坂さん、磯﨑さんと食べた時の方が口当りがよかったように思ったが、今日のはうなぎが口の中でチーズみたいにトローッと溶けて、「もうひとつだ」と言うと妻は今日のは最高級を注文したので上等過ぎたのではないか? と言う。「文藝」がケチって特上ではなかったのかな? そんなことを今さら聞くわけにもいかないが、妻と徳永は小言をいわないで「美味しい、オイシイ」と言って食べていた。

美術館から黒河内さんが車で友栄に迎えに来てくれる。彫刻の森美術館は高原にあるので小田原よりは一、二度涼しいよーだ。着くなり、先っきの写真展を見て、庭園内の彫刻を見て廻るが、ここで絵のアイデアが浮かんで写真など撮る。一番の目玉写真は彫刻の森駅のそばのY字路だが、このYの片方が鉄道になっているという非常に変ったY字路である。Y字路を描き始めて、すでに17年にもなるが今でも思い出したようにポツポツと描くことがある。その都度絵のスタイルも変る。統一した様式には興味がないので、一体誰の絵だか次第にわからなくなってきている。特定の様式を主張するのが画家の仕事だけれどぼくの場合はそれがないので、死後鑑定されると全部贋作になってしまうんじゃないかな。

黒河内さんに箱根湯本駅まで車で送ってもらう。駅で妻は季節の食料品を沢山買う。

帰宅したのは7時前。一日留守にしていたので無口なおでんは顔を合わせるたびに小さい声で「ニャ」と鳴く。

町田の版画展の展評が朝日、東京、日経新聞等に出るがどの展評の作品も申し合わせたように「ターザンがやってくる」の版画が掲載される。「HANGA JUNGLE」という題名のせいでターザンになったのかも知れない。日経の宮川匡司氏は「驚き」と「喜び」と「共鳴」の象徴がぼくの子供時代のターザンを表わしていると。そう、この要素はぼくの創造の核になるインファンテリズムなのである。

2017.6.1
 小学校の広い踊り場のある階段を柩をかついでうちの爺さんの亡骸が降りてくる。上階の部屋には看護婦の蒼井優さんがいる。彼女はぼくの妹だ。この夢って映画「家族はつらいよ」とそっくり。小林稔侍さんが入った柩が階段からすべり落ちる。蒼井さんは看護婦役。なんで? 映画をアレンジしたような夢を見るんだろう。

新聞の死亡欄を見るのは昔からの趣味。男性死亡年齢はほとんどが80代。ぼくも80代だが画家が80代で死ぬと早死って気がする。ピカソ、シャガール、キリコ、ダリ、北斎、みんな90代だ。油が乗るのは80代だもんね。

2017.6.2
 次回作は何にしよう? と無為のまま一日ぼんやり過ごす。

2017.6.3
 80年生きて、幸せだった瞬間はいつ? とふと考える。〓年上京して半年後父の急逝で帰省のため渋谷に行くその途上、急に辺りがキラキラ輝き始めた。「これで自立できる」と思った瞬間が一番幸せだったような気がする。
二子玉川ライズにて、山田洋次さんと(撮影・房俊介)
2017.6.4
 山田洋次さんに「人生の幸せの時」を質問した。山口の工場地帯の海で魚肉を加工してちくわを作っていた業者から中三の時、バイトでちくわを仕入れ、草競馬場で商いをするおでんの屋台のおばさんに「ぼく引揚げ者です。ちくわを買って下さい」とお願いしたら、「坊やそのちくわ全部買ってあげる、明日もいらっしゃい」と言われて帰る道すがらなんともいえない至福感に満たされたそーだ。

二子玉へ映画「メッセージ」を山田さんと観に行く。世界の12ヶ所に巨大な宇宙船が飛来。宇宙人と意思の疎通を図る女性言語学者が彼等が放つエネルギーの表意文字の解読に努力するうちに時間の逆行を体験していく。まあチンプなコミュニケーションによる大げさな仕掛けの中で目覚める男女の愛ってとこかな。(よこお・ただのり=美術家)

2017年6月9日 新聞掲載(第3193号)
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