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Forget-me-not
2017年6月13日

Forget-me-not(23)

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川面が凍る3月、中朝国境となる豆満江で密輸をする中国と北朝鮮の人々。ⒸKeiji fujimoto

異国の牢屋で生活をするのは、自身を覗き込む行為でもある。心のふたが開き、感情を広げていく感覚だ。それまで隠されていたものが姿を現す。

牢屋の暗がりには、脱北者と思わしき女や男たちが座っている。失敗したのだろう。暗がりに潜む彼らは沈黙の中に身を落としている。こういった人物たちは箱の奥底に住んでいて、看守達の前では感情を隠しきっているのだ。

これらはあくまでも僕が北朝鮮に投獄された一週間足らずの間に見た風景のことだ。投獄中は過度の興奮や消沈が繰り返す状態にあり、全てを客観的に記憶した自信など全くない。

放り込まれたのは、おそらく随分とまともな牢屋だった。赤いカーペットが敷かれ、便器があった。硬かったけれど、ベッドさえも置かれていたのだ。

僕を担当した女性警察官は想像したよりも優しく、その笑顔に不安な心を癒された。受け入れられていると感じるだけで気持ちが安らぐのだから、人間とは単純にできているものだ。

カメラを取り上げられ、風景を目に焼き付けることだけに精一杯になっていた。

社会の恥部を観察したい、己の視覚のみで得られる体験をしたい。できればその奥にあるものに到達したい。そう。覗き見とは、きっと単純で素晴らしい欲求なのだ。 (ふじもと・けいじ=写真家)

2017年6月9日 新聞掲載(第3193号)
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