風かたか 「標的の島」撮影記 / 三上 智恵(大月書店)反対運動のシンボルともいえる二人  政府の沖縄戦場化構想への怒りをしなやかに受け止めしたたかに抵抗|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年6月12日

反対運動のシンボルともいえる二人 
政府の沖縄戦場化構想への怒りをしなやかに受け止めしたたかに抵抗

風かたか 「標的の島」撮影記
著 者:三上 智恵
出版社:大月書店
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沖縄の反基地闘争に対する、本土のメディアの扱いは信じられないくらい冷淡だ。辺野古や高江で執拗に繰り返された、本土から派遣の機動隊による極めて凶暴な弾圧は、そのほとんどが報道されることさえもない。県民が一体となった「オール沖縄」が、辺野古反対の知事を誕生させても、基地容認の国会議員を全員落選させても、国は沖縄の民意など全く無視してアメリカの言いなりになって辺野古新基地造成を強行する。市街地にあって危険な普天間基地を移転させるといいながら、実は老朽化した基地の縮小と引き換えに、弾薬庫と二本の滑走路と軍港が一体となった統合型出撃基地を新設しようという米軍の東アジアに向けての戦力強化策であるのは明白なのだ。

この本は、沖縄の反基地闘争を取材した映画「標的の村」や「戦場ぬ止み」で各種ドキュメンタリー映画祭を受賞するなど高い評価を得てきた著者の新作「標的の島 風かたか」の撮影記録で、準備段階の二〇一五年六月一〇日から、完成後の二〇一六年一二月二八日までの日付のある文章が収められている。本土の無理解や沖縄県民の意志を無視した政府の権力むき出しの沖縄戦場化構想への怒り。それをしなやかに受け止めしたたかに抵抗を続ける、祖霊信仰とも重なる叡智が脈々と受け継がれてきていることを沖縄国際大学で沖縄民俗学を講ずる著者は見逃さない。

悪性リンパ腫での闘病生活から奇跡的に復活し、辺野古ゲート前で早朝からの座り込みを指揮する山城博治さんの、緩急自在で絶妙な人間性溢れる指導者ぶり。その山城さんの不当逮捕と長期拘留に抗議して名護署に通っていた八七歳で車椅子の文子ばあまでもが、四二歳の日本のこころ所属議員に暴力を振るったと、ありえない冤罪で任意取り調べを受ける。反対運動のシンボルともいえる二人に対する不当弾圧である。

南西諸島の軍事要塞化は、二〇一一年に米国防総省が打ち出した「エア・シー・バトル構想」を前提にしているが、これを受けて、自衛隊幹部の教育機関「統合幕僚学校」がまとめたリポートによれば、日本の自衛隊はこの構想に積極的に貢献すべきだと訴えている。集団的自衛権、武器輸出の解禁、民間からの徴用、戦争や内乱、災害時には憲法を停止させ内閣が強権を掌握できる「国家緊急事態法」の整備など、すべてこのレポートの主張に沿って実現化し、あるいはしつつあるのだと著者は言う。国民の知らぬ水面下で軍民統制が進行しているのだから恐ろしい。

政府は、中国の台湾統合を想定して南西諸島の防衛強化を打ち出す。そのため、宮古島と石垣島にも攻撃力を持った自衛隊を配備しようと、外国艦隊を標的とする移動式ミサイル発射機や大規模弾薬庫や実弾射撃訓練場も新設され地下に司令部もおかれる。中国の艦隊が台湾をめざして琉球弧を通過するときに射撃する準備なのだが、それは誰のためか。集団的防衛権によるアメリカ軍への援助は、知らないうちに日本が参戦することになり、ミサイル基地のある南西諸島は相手国の標的になる。アメリカは無傷のまま、日本の国土が戦禍にまみれることになりかねないのだ。

「風かたか」とは、「風よけ」のこと。二〇一六年、米軍属による暴行殺人事件を受けた「6・19沖縄県民大会」で、オープニングの古謝美佐子さんの「童神」の歌の後、犠牲になった少女の生まれ育った名護市の稲嶺市長が「『風かたか』になれなかった」とスピーチし著者は号泣したという。文子おばあも八七歳で次世代の「風かたか」になろうと毎日ゲートに立っている。「憲法も民主主義も地方自治もないがしろにしながら暴走する安倍政権が、私たち日本国民をどんな暗黒の世界に引きこもうとしているのか、それが他県の人たちよりも明確に見えているから踏ん張っているのだ」「この国に生きる人が主体的に思考せずに、単に権力に怯え、武器に怯え、貧困に怯え、ヘイトでガス抜きするだけでやり過ごした結果、他国民の命も自国民の命も守れないと絶望する運命に向かっている現状を、この沖縄で止めているのだ」という著者の言葉が、読後に重くのしかかってくる。

この記事の中でご紹介した本
風かたか 「標的の島」撮影記/大月書店
風かたか 「標的の島」撮影記
著 者:三上 智恵
出版社:大月書店
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年6月9日 新聞掲載(第3193号)
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