評伝むのたけじ / 北条 常久(無明舎出版)むのたけじの歩んだ道  厳しい姿勢とひたむきな正義感|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 評伝むのたけじ / 北条 常久(無明舎出版)むのたけじの歩んだ道  厳しい姿勢とひたむきな正義感・・・
読書人紙面掲載 書評
2017年6月12日

むのたけじの歩んだ道 
厳しい姿勢とひたむきな正義感

評伝むのたけじ
著 者:北条 常久
出版社:無明舎出版
このエントリーをはてなブックマークに追加
「死ぬ時そこが生涯のてっぺん」と公言していた生涯現役のジャーナリスト・むのたけじは昨年八月に百一歳で亡くなった。本書はむのの最初の評伝だ。著者はむのと長年親交のあったあきた文学資料館名誉館長の北条常久氏。生前の聞き取りなどをもとに三年かけて執筆したという。

わたしは、「“むのたけじ教”の熱烈な信者」と言う評論家・佐高信と同じ“むの教”の信者の一人だった。むのの、内面の情念を激しく叩きつけるような厳しい姿勢とひたむきな正義感がわたしに生きる勇気と希望を与えてくれたのだ。ぼろぼろになった『たいまつ十六年』(企画通信社版)、『たいまつ』、むのの著書、四十通にのぼる手紙類、何冊ものスクラップブックなどを目の前にして、むのたけじはわたしの人生においてかけがいのない師であった、と改めて思う。「自分を鮮明に生きる」というむのの教えを自分に言い聞かせてきた。

本書は、死ぬまで反戦平和を訴え続けたむのの原点や思想、社会への訴えを時系列でまとめている。詳しく紹介できないので、章のタイトルだけを列記しておく。貧しい農家に生まれ、地主との格差を目のあたりにし、社会の理不尽さを世に訴えていくむのの歩んだ道と彼の関心を持ったテーマがわかる。

少年時代、東京外国語学校時代、新聞記者時代、敗戦・退社、魯迅と内山完造、「たいまつ」創刊、農業、教育、平和の戦列、家族新聞「たいまつ」、学生運動、『たいまつ十六年』、三里塚闘争、部落解放運動、ジャーナリズムは死なせない、コトバの体系、「たいまつ」休刊、時代の証言者、むのたけじを継ぐ人々。

むのは一九四五年八月十五日に朝日新聞を辞め、故郷の秋田県横手市で新聞『たいまつ』を出したが、『たいまつ』の主論は農業と教育だった。「戦後の農地改革を経ても農民の意識は変わっていない。みずからを甘やかすものに、情勢が正しく見えるはずがない」と農民の悪口を言い続けた。また、「この国がまともな国としてよみがえるには、民族のどの部門の機能より先に、かつ深く、教育がまともによみがえらねばならない」と教師に訴えた。

むのは亡くなる年の五月の憲法記念日の集会に車イスで参加し、戦争の体験者、時代の証言者として、二度と戦争はしてはならないと憲法九条の意義を説き、最後まで反戦平和の道を貫き通した。

本書は「評伝」とうたっている。評伝とは批評と伝記とを併せ持つ。わたしはこれまで須田禎一『風見章とその時代』(みすず書房)、牧原憲夫『山代巴模索の軌跡』(而立書房)、松尾章一『歴史家服部之總』(日本経済評論社)などの評伝を見ているが、書く対象者をきちんと見つめ、自分と対峙させ、その人を浮かび上がらせる営みは生身を削る作業に等しいもの、と思う。むのたけじはジャーナリストだったが、その枠に入る人ではなかった。

むののホームグランドの秋田には、山脈の会の白鳥邦夫、合川町長の畠山義郎、小坂太郎、押切順三、野添憲治、金一治、高橋誠一、佐藤喜作などがいる。歌舞集団のわらび座もある。忘れてならないのは大野進。彼は『たいまつ十六年』を世に出した。それらの人たちやグループなどとどう関わったのかをわたしは知りたいと思った。ないものねだりだろうか。

この記事の中でご紹介した本
評伝むのたけじ/無明舎出版
評伝むのたけじ
著 者:北条 常久
出版社:無明舎出版
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年6月9日 新聞掲載(第3193号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
先﨑 千尋 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
学問・人文 > 伝記関連記事
伝記の関連記事をもっと見る >