洋服デザイナー・帽子千秋さん (上)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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あの人に会いたい
2017年6月20日

洋服デザイナー・帽子千秋さん (上)

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愛媛県大洲市。松山から車で五〇分ほどのところに、帽子千秋さんの店「Sa―Rah」(サラ)はある。帽子さんがデザインし、近くのファクトリーでは、女性三人のスタッフが服を作るために丁寧に手を動かしている。店を訪れるお客様は八割以上が大洲市外から。松山は言うに及ばず、県外からも多数の人がここ、大洲まで帽子さんの作った服を見に来て、気に入れば買っていく。最初にお会いした時から、なぜか気になる存在だった帽子さん。そのわけを突き止めたくて、愛媛県松山空港に初めて降り立った。

帽子 千秋さん
帽子千秋さんとの初めての出会いは、昨年十一月にさかのぼる。

「日本ホビー協会」が新しい試みとして主催した“HandmadeMakers’”。多彩なジャンルのクリエイターが集まる、手づくり作品・商品の販売イベントの場に出展していた一人が帽子さんだった。私がMCを務めるセミナーに参加していただいたことをきっかけに、打合せも兼ねていろいろお話すると、愛媛県からの出展だという。その折にデザインした洋服も見せていただいたが、なにより印象に残ったのが、自分たちで作っているというコレクションムービーだった。美しい自然を背景にした、ストーリー性のある映像と音楽。新作のワンピースをまとった、モデルのさりげない動き。その二〇分程の映像に、衝撃を受けた。

自分の世界観を表現するために、手間を少しもいとわない。自分の作った洋服が大切で、好きでたまらないということがストレートに伝わり、「どこまでこだわる人なんだろう」というのが、正直な感想だった。そしていつか、「Sa―Rah」という店をこの目で見てみたいと、思わずにはいられなかった。

    *

その思いが実現するのは、意外に早かった。松山に用ができ「帽子さんのお店は確か愛媛県だったはず」と、気づいた。連絡すると「ぜひ来てください」と言ってくれた帽子さんに、松山空港から大洲市まで、バスに揺られて会いに行った。

夕方近く、「Sa―Rah」の前に立ったとき、この中には「いいな」と思うものがいっぱい詰まっていて、なかなか出られなくなりそうだという予感があり、同時に中に入るのがなんだかもったいない気分でもあった。グレーのコンクリートの建物は、もとは焼肉屋だったが、何年も空き家として放置されていたらしい。「とにかくこの景色が気に入ってしまって」と帽子さん。道路を挟んだ店の向かいには、ゆったりとした川が流れ、季節になるとタンポポや菜の花が群生するという。

松山からもかなり距離があり、決して便利な場所ではない。それでも松山市内はおろか、県外からもお客様が頻繁に訪れるという。「親子連れで来てくれる方たちも多いんですよ」

「Sa―Rah」の服は、着る人を選ばないデザイン性だけでなく、価格もリーズナブルなことが、ファンを増やしている大きな要因だと感じる。値付けについて聞いてみた。

「子供を二人育てた経験がとても役に立っています。三〇代、四〇代の時って自分の洋服を一枚買うのだってすごく勇気がいるし、そのためにいろいろやり繰りをするんです。この金額だったら買えるし、毎日着たい。そう思ってもらえる値付けを、いつも考えています」。そしてこうも言った。「私、十八年間銀行に勤めていたので、数字にはかなり慣れ親しんだけれど、数字は見るものであって、囚われるものではないという考え方が根本にあるんです」。だから売り上げの目標とか、いくら売らなければいけないとか、そんなことに関心はないと言い切る。百貨店やセレクトショップから、「Sa―Rah」の服を置きたいと言われても、ほとんど断ってしまうという。ネットでの販売も限られていて、洋服の素材やデザインをじかに見て、試着して、本当に気に入ったら買っていただくという姿勢を貫いている。
肱川のほとりに建つ「Sa―Rah」
 店内には靴や帽子など、「Sa―Rah」の服に似合いそうな雑貨類は置いているが、ニットを除き、所狭しと並ぶ服はすべて、帽子さんのデザインによる。愛媛県大洲市で、これだけの数のオリジナルの服を置き、需要があることに驚いたが、今ではそれがアジア各地に届くようになっている。次回は帽子さん自身が各地に出向き、そこでどんな出会いを持ち、どんな時間を過ごすのかご紹介する。(次号につづく)
※「Sa―Rahのお洋服展」
◇~6/25:moln(鎌倉市御成町13―32 2F)
◇6/27~7/8:fairedesbonds(名古屋市中村区名駅4―16―24名駅前東海ビル204)他
2017年6月16日 新聞掲載(第3194号)
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