【横尾 忠則】若者にはできない 老人の音楽、老人の絵|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
2017年6月20日

若者にはできない 老人の音楽、老人の絵

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アトリエにて戌井昭人さんと(撮影・徳永明美)
2017.6.5
 十和田市現代美術館の小池一子館長が戌井昭人さんを誘ってアトリエへ。戌井さんとは初対面だと思ったら、まあ初対面には違いないのだけれど、以前『芸術ウソつかない』(ちくま文庫)で解説文を書いた、と本人から知らされて、恐縮。戌井さんには十和田の個展のカタログに文を寄せてもらうことになっている。隣町に住む戌井さんはアトリエの横の遊歩道から時々、アトリエの中を覗いていたらしい。では今日はアトリエの中から遊歩道を眺めて下さい。

2017.6.6
 東宝スタジオの一室で国書刊行会から出版する47年前に山中湖で撮った20人のヌード写真集の編集作業をする。何しろ47年前の写真を「なぜ今?」と問われたら何と答えよう?「写真が陽の目を見たがっている」じゃ能がないか?

2017.6.7
 百歳までの寿命を予測した生活設計を梅原猛さんと一緒に延命プロジェクトを発足するというユメのような夢を見る。

写真家の田原桂一君(65)死す! 去年六本木のメルセデス・ベンツコネクションでメルセデス・ベンツに絵を描いた車の発表会にひょっこり訪ねてくれた。彼のパリ時代に向こうでよく会った頃は田村正和ばりの美男子だったのが、坊主頭の大男になって現われたのにはビックリ! ついこの間、写真展の案内状が届いたが相変らずいい仕事をしているなと感心したばかりだ。彼の死亡記事の隣りにやはり写真家の山崎博(70)さんの死の記事も。彼とは一、二度会ったが、何十年も会っていないので顔が思い出せない。人の死はこんな風に突然やってくる。死が当り前で、生きていることの方が不思議に思えるようになってきた。

10時から今日も東宝スタジオへ。事務所の隣りの大屋哲男さんの会社がスタジオ内にあるので訪ねる。映画のCG制作の会社で作業場を案内される。

夕方、朝日新聞の書評委員会へ。本命をすでに落札前に未然に書評を書き上げていた。過去完了形によって落札が現実化しました。
東宝スタジオにてロマン・コッポラさんとビデオ通話で打合せ(撮影・相島大地)

2017.6.8
 今日も東宝スタジオへ出勤。毎年山田組の撮影時に通っていたので勝手知ったわが家って感じがしないでもない。ここの食堂での昼食は楽しみのひとつ。どのメニューも美味なり。一番高くっても5、6百円也。写真集の編集はほぼ昨日で完了。午後、ロマン・コッポラ監督と彼が制作中の映画への協力要請を受けているので、その打合せをテレビ電話でする。前作で指揮者ロドリゴ・デ・スーザが刑務所でオリヴィエ・メシアンの曲を演奏したが、その時の音楽のアルバムが今回の映画の中で発売されるがそのアルバム・ジャケットのデザインを依頼される。レコードショップにアルバムが並ぶ風景として撮影されるらしいが、こんなシーンにさえも、わざわざ海外のアーティストに依頼するという彼等の拘りには驚かされる。アメリカの文化の厚みを感じる。日本ではいいものを作るよりも、金がかかる、メンドー臭い、を優先する。

コッポラと打合せの場に山田さんに「コッポラ」というネーミングのワインを2本差し入れしてもらったのでコッポラにワインを見せて、山田さんを紹介する。「海外との初めてのテレビ電話だ」とコッポラに言うと彼は、「これは自慢になるぞ」と喜んでくれる。

2017.6.9
 十和田市現代美術館に作品をトラックで搬出する。運送屋の人や学芸員の人でガヤガヤしている中で北海道新聞の「芳年」展のための原稿4枚書く。騒々しい方が逆に落ちつく。

未発表のままアトリエにころがっているタマの絵を画集に、と講談社から依頼あり。ところでタマの命日5月31日はすっかり忘れてしまっていた。

2017.6.10
 ぼくのアトリエらしいが実際の建物とはちょっと違う。そこに次々と大勢の人達が仕事の依頼や打合せにやってくるが、さばききれないでモタモタしていると山田さんが見事に仕切られる。さすが映画監督だ。

三省堂で『老子の教え』を買う。老子は何冊か持っているが訳者によって「教え」が異なる。老子は現世でというよりも死後における悟りだと思う。

夜はマッサージへ。マッサージは肉体の悟りだ。

2017.6.11
 昨日も今日も休日はぼんやりと無為な時間をむさぼる。午後、神津善行さん来訪。コンピュータで音楽を作曲とか。今の若い人達はモーツァルトの曲など簡単に書いちゃうらしい。音楽もコンピュータの導入でどんどん進行するので、早く死んじゃいたいと。そんなこと言わないで、老人でしか描けない絵ってあると思うので、老人の音楽を作って下さいよ。老人の作る作品は絶対若い者にはできませんよ。ガタガタに震えた絵とか音楽なら負けませんよ。
2017年6月16日 新聞掲載(第3194号)
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