Forget-me-not(24)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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Forget-me-not
2017年6月20日

Forget-me-not(24)

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町外れにある安宿で週末を共に過ごすパトリック(左)とジョー(右)。二人の関係は二年に渡り続いた。ⒸKeiji fujimoto
ナイロビに暮らしていた僕の元に届いた手紙には「病院での治療は順調に進み、来月には退院できるかもしれない」と書いてあった。その文字を見つめながら、記憶の断片を辿った。

ケニア北西部、カクマの大地に朝日が昇り、男たちの影が伸びている。前日、町外れの安宿で夜を共にしたジョーとパトリックが帰宅しているのだ。ゲイであることが周囲にバレない様にお互いに妻子を持った二人は、しかし毎週末の様に密会を重ねていた。

そんな彼らの関係にヒビが入ったのは、ジョーが末期ガンを患っているのがわかってしばらくしてからのことだった。明日が見えない。絶え間ない憂鬱に疲弊し、笑いが絶え、潤いが消えていった。

たった数ヶ月前まで、ベッドの上で裸で抱き合っていた二人は満足感で溢れていたのに。パトリックと別れてから、ジョーが過ごした最後の日々を想う。葬式で見た棺のなんと小さかったことか。

「僕が死んでも、時々は思い出してほしいな」と妻子に言葉を遺してこの世を去った。

あれから二年の月日が流れた。窓を開けるとジョーの遺した手紙は風にさらわれてひらひらと舞いながら、ゆっくりと床に落ちた。
2017年6月16日 新聞掲載(第3194号)
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