パリ万国博覧会とジャポニスムの誕生 / 寺本 敬子(思文閣出版 )精緻な調査と明瞭な書きぶり  ジャポニスム研究の進展と進化を豊かに示す|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年6月19日

精緻な調査と明瞭な書きぶり 
ジャポニスム研究の進展と進化を豊かに示す

パリ万国博覧会とジャポニスムの誕生
著 者:寺本 敬子
出版社:思文閣出版 
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一八六七年(慶応三年)、一八七八年(明治一一年)。十年余を隔ててパリで開催された二度の万国博覧会で、参加国としての日本のイメージはどう形成されたか。一八七〇年代初頭に「ジャポニスム」という新語がフランス語の語彙に加わっている事実を鑑みても、文化史上における重要な問いであることは間違いない。だが、その分析には日仏双方の視点からの精査が必要となる。イメージの形成は、一方では発信する側がどこに力点を置くかという自己アピール力の問題であり、他方では異文化の価値をどこまで見出せるかという受け手の感度と理解力の問題でもあるからだ。本書『パリ万国博覧会とジャポニスムの誕生』は、多くの資料を駆使しつつ、こうした相互作用を多方面から検討する。

舞台となる「万国博覧会Expositionuniverselle」自体、さまざまな機能を持った特殊な場である。フランス語の形容詞universelは日本語の「万国」とイコールではなく、「全てに広がり、至る所に及ぶ」という精神と理念を示している(この点に関しては著者もたびたび「ユニヴェルセル」とカタカナで書いて注意を促している)。主催国の目論見とは、会場を全世界の縮図とした「万有博覧会」「万物博覧会」をつくりあげること、さらには自国がその中心であるかのように来場者に誇示することにある。参加国の出品物は「グランプリ」をはじめとする賞の授与によって序列化され、さらには文化的論評まで加えられる。このような力学がはたらく場で、極東からはるばる駆けつけた日本は、いったいなにを示しえたのか。

一八六七年の万国博覧会では、日本には一〇〇平米に満たない場所しか与えられず、隣り合う中国やシャムの展示とも差別化が難しいという多難なスタートであった。弱体化していた幕府は外交と通商を最大の目的としていたが、薩摩藩の画策やフランス側関係者の二股膏薬によって、むしろ国体の権威を低下させてしまう。だが、その一方で磁器をはじめとする工芸品は望外の評価を受け、光輝ある「グランプリ」を獲得するのである。こうした思惑と結果との掛け違いは、一八七八年にも繰り返される。明治新政府は、欧米の実用に適した工芸品を展示することで輸出振興を図った。前回の一八倍もの展示場所が与えられ、一般大衆には好評を博して複数の「グランプリ」も獲得したが、その一方で日本文化に精通した当地の批評家には酷評を受けた。日本側が誇示しようとした西洋化と近代化は、文化の「衰退」として捉えられたのである。こうした齟齬を詳細に検討した本書は、その綿密さによって、むしろ問題の持つ普遍性に至っていると言えよう。読後、官主導の「クール・ジャパン」の旗振りや、さらには来るべき東京オリンピックに対して思いを馳せざるをえなかった。万国博覧会への初参加から一五〇年を経て、「日本」のイメージ形成の問題はなお続いている。

本書の魅力は、著者の精緻な調査と明瞭な書きぶりはもとより、多くの興味深い登場人物たちにもある。二度の万国博覧会の間に、日本は幕府から明治政府に、フランスは第二帝政から第三共和政へと政治体制が変化した。権力の所在が定まらない時期にはさまざまな人物が跳梁跋扈し、歴史的事実でありながらも小説のごとき趣きがある。「白山伯」ことモンブラン伯爵、「妖僧」メルメ・カションらの暗中飛躍、また日本側では徳川昭武や前田正名ら、万国博覧会と関わった人々の人物像が、新資料にも裏打ちされて生き生きと浮かび上がる。

浮世絵が印象派やアール・ヌーヴォーなどに与えた影響として狭義に論じられることの多かったジャポニスムは、現在、より広い文化現象としての捉え直しが進んでいる。文化、政治、社会の状況が絡み合い「日本」のイメージを形成する過程を解明した本書は、ジャポニスム研究の進展と深化を豊かに示している。
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2017年6月16日 新聞掲載(第3194号)
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パリ万国博覧会とジャポニスムの誕生/思文閣出版 
パリ万国博覧会とジャポニスムの誕生
著 者:寺本 敬子
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